企業のソーシャルメディア活用において、直接的に売り上げに貢献できる可能性の高い「ソーシャルコマース」。今回は購買行動を考える上で基礎となる6つの心理、「権威」「希少」「好き」「一貫性」などに基づき、ソーシャルコマースを考察します。
ソーシャルメディアで、直接的な売り上げを上げることはできるのかという問いの1つの答えにソーシャルコマースがあります。ソーシャルコマースは、まだまだ発展途上でいろいろな方法が試され、効果が検証されている段階だと思います。今回は、ソーシャルコマースを考える上で参考になる人間の心理をもとに、どんな仕掛けができるのか考えてみたいと思います。
そもそもソーシャルコマースとは何でしょうか。Wikipediaを調べると、以下のように出ています。
ソーシャルコマースは、オンライン上での商品やサービスの購入及び販売において、ソーシャルなやり取りやユーザーの発言をサポートするようなソーシャルメディアやオンラインメディアを利用するEコマースの一種。
簡潔に言えば、ソーシャルコマースは、Eコマースのトランザクションというコンテクストにおいて、ソーシャルネットワークを利用すること。また、ソーシャルコマースに特化したメディアである「Social Commerce Today 」では、以下のように定義しています。
コマースのコンテクストの中でソーシャルテクノロジーを利用すること。ソーシャルメディアを使って販売すること。
これらの定義を考えてみると、例えば「オンライン上のレビュー」「他の人のおすすめを表示する」「販売サイトにソーシャルボタンを付ける」「Facebookページからダイレクトに商品の購入ができるようにする」「Facebookページから販売サイトにリンクする」「ソーシャルメディア上でクーポンなどを配布する」といったようなことは、すべてソーシャルコマースであると言えます。
では、友達が「○○展に来ています。展示が充実しています」とFacebookに投稿し、それを見た人がその展示を見に行こうと思って、オンライン上でチケットを購入した場合、それはソーシャルコマースでしょうか。この場合は、自然発生したFacebook上の会話が刺激になり、展示開催の情報の発見、興味の喚起が起こり、結果として購入行動に至りましたが、「Eコマース」というコンテクストからは外れているので、ソーシャルコマースではない、ということになります。
一方で、○○展がFacebookページに特別なページを用意し、来館者に感想を書きこんでください! という企画をし、そのページに「チケット購入」ボタンをつけたとします。この方式は、「Eコマース」での購入者増加を意図した仕掛けなので、「ソーシャルコマース」だと言えます。
生活者がソーシャルコマースにおいて、購買するきっかけになる心理学的な動機についてまとめたこちらの記事が参考になります。取り上げられている6つの動機を紹介します。
How Social Commerce Works: The Social Psychology of Social Shopping:(Social Commerce Today)
なお、この動機は、ソーシャルコマースだけに言えるものではなく、従来の購買行動にも影響しているもので、すでにさまざまな広告手法、マーケティング手法などで取り入れられています。よって、真新しい発見ではありませんが、こうした心理を意識した上でソーシャルコマースの手法を考察すればよりユーザーの心に訴える方法を考えることができます。今回は、それぞれの動機を刺激しているようなソーシャルコマースの例も併せて紹介します。
ソーシャルプルーフは社会的証明という意味です。どのお店にいこうか、どちらの商品を選ぼうか、というとき、「みんなの意見」を参考にする人は多いでしょう。1人で決心できないときに、みんなからの評価が高いもの、一番売れているもの、といったソーシャルプルーフを、購入の判断基準にします。ソーシャルコマースにおいて、ソーシャルプルーフは以下のような形で利用されています。
単純な売上ランキングはソーシャルコマースのうちに入らないと思いますが、購入サイトに誰が「いいね!」をしているのかが見えたり、自分の知っているユーザーのレビューが見えるのは、ソーシャルコマースの手法だと考えられます。
例えば、LinkedInの会社ページには、プロダクトやサービスを紹介できるページがあり、そこにユーザーがレビューを書くことができます。その時に、ユーザーのコネクションに近いユーザーのレビューが優先的に表示されるようになっています。
人は、その道の専門家や権威のある人の意見、決定に従うという傾向があります。その道の専門家の知識、経験などを参考にすることで、そのことについて考える時間や労力を省けるからです。
以下のような形で利用されています。
有名人がFacebookやTwitterなどで高評価なコメントを投稿すれば、ファンに対して影響力がありますが、近年、ステルスマーケティングと受け取られるような手法はユーザーからの反発が強いので、注意する必要があります。
人は手に入りにくいものほど大きな価値を感じる傾向があります。時間を制限してタイムセールスを行うフラッシュマーケティングの手法や、期限までに最低人数が集まれば販売するというグループ購入の手法などが、ソーシャルコマースにも適用されています。
時間制限や個数制限を設けて「早い者勝ち」で商品を販売するフラッシュマーケティングを、希少性をあおる手法として取り入れているサイトもあります。Facebookページの投稿から提供できる「Facebookのオファー」も、期間やクーポンを取得できる人数を制限でき、希少価値を訴えることができます。
人は自分が好きな人や憧れの人のマネをしたり、賛同する傾向があります。社会的なつながりを作るためであったり、信頼を示すため、あるいは同じにすることで自分のイメージをコントロールするという理由もあります。
コマースサイトにFacebookでログインできるようにして、自分の友達のおすすめや購入したものなどが見られるようにしている例があります。USのチケット販売会社Ticketmasterでは、映画やコンサートなどのチケット販売で、友達がいつ、どの席に座る予定かということを“見える化”しています。
迷ったときは、自分の信念や過去の経験と同じものを選ぶ傾向があります。自分の信念や行動に反するものに対しては、心理学用語でいうところの認知的不協和を感じます。
ある調査では、知らないお店と信頼しているお店があったときに、オンラインでは信頼しているお店から買うという人が62%という結果になっています。
ソーシャルメディア上で、コメントやレビューをし、アイデア募集に投稿すること、ブランドのゲームアプリを使うことなどが、将来的な購入につながるということです。
例えば、Levisは新しい女性向けジーンズのシリーズとして、女性の体のラインにあわせたCurve IDというプロダクトを用意しています。Curve IDは体型によって、数種類のパターンに分かれます。このプロダクトと提携したサービスとして、Facebookモール内に店舗を用意し、そこで自分のCurve IDを選択するゲームを用意しました。結果、当初の目標を25%も超えるユーザーがゲームに参加し、自分のリアルなデータを登録してカーブIDを確認しました。
実際に店舗で自分のサイズを店員に測ってもらってCurve IDを知るのは、恥ずかしいという思いがありますが、バーチャルで測れるのであれば、気軽に試せるし、自分のタイプが分かれば、実際に購入してみようという気にもなるでしょう。
人は恩に報いたいという思いがあります。それは、生来的な良心や助け合いの思い、あるいは、関係やコミュニティ、社会を構成するものであるからです。友達に割引を知らせたり、コミュニティの中で初心者に教えてあげたいというような想いがあります。
例えば、以前Intelが行ったキャンペーンで、Facebookページへの「いいね!」が増えるほどパソコンの価格が安くなる、というものがありました。「いいね!」をした人がアプリを使って、友達にも「いいね!」をしてもらうようにお願いし、数を増やしました。
さて、今回はソーシャルコマースを刺激する6つの心理について考えてみました。ソーシャルメディアの運用にあたっては、人の感情を動かすようなコンテンツや仕掛けが必要とされていますが、ソーシャルコマースも売れることよりも、顧客の購入までのプロセスを効率化させ、決定しやすくすること。あるいは、友達にもシェアしたくなるような仕組みが必要だと言えます。また、ソーシャルコマースには直接入りませんが、ユーザーによる自然なシェアを生みやすくするような環境を用意する工夫も必要です。
※この記事はSocial Media Experienceの「ソーシャルコマースの購買心理への影響」を一部修正して転載しています。
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