コンテンツに戦力を“全集中” 「徳川家康の戦略」に学ぶ、いま必要なマーケティングとは顧客起点でLTVを最大化するトヨクモのマーケティング戦略

徳川家康の言葉をヒントに現代のビジネス環境にあったマーケティングを実践する私たちの「勝ち筋」について紹介します。

» 2025年02月27日 08時00分 公開
[中井康喜, 坂田健太トヨクモ]

 徳川家康は、「馬上をもって得た天下を、馬上をもって治めるべきではない」という言葉を残しました。戦国時代から天下統一を果たしたやり方は、江戸幕府を開き平和になった世の中には適用すべきではないという意味です。

 顧客がインターネットを駆使し、自ら情報を収集・比較検討する時代、トヨクモはこれまでの考え方を一新して「顧客起点」のマーケティング戦略、TMM(トヨクモマーケティングモデル)を実践しています。TMMでは戦術(HOW)としてコンテンツマーケティングに注力しています。2024年度は1100件ものコンテンツを作成し、顧客が求める情報を最適な形で提供しました。

 そこで今回と次回、トヨクモのコンテンツマーケティングを二部構成で徹底解剖し、その秘密に迫ります。第一部では、トヨクモがコンテンツマーケティングに込める熱い思いと、戦略・戦術を考える上で重視していることを紹介します。

寄稿者紹介

中井康喜

トヨクモ中井さん

なかい・やすよし トヨクモ マーケティング本部 プロモーショングループ/StrategicGrowthグループ マネージャー。2020年新卒入社。サイボウズが開発・提供するノーコードツール「kintone」に連携した「Toyokumo kintoneApp」(トヨクモが提供するkintone連携サービス6製品の総称)のカスタマーサポート担当を経験後、災害時の安否確認を自動化する「安否確認サービス2」のプロモーション担当へ。2023年からプロモーショングループのマネージャー。2024年からStrategicGrowthグループのマネージャーも兼任。主な業務はマーケティングの戦略設計、広告、プロジェクトマネジメント。kintoneカイゼンマネジメントエキスパート。

坂田健太

トヨクモ坂田さん

さかた・けんた トヨクモ マーケティング本部 プロモーショングループ トヨクモ防災タイムズ編集長。2021年中途入社。「安否確認サービス2」の導入提案やサポートに従事。現在は、BCP関連のセミナー講師やトヨクモが運営するメディア「トヨクモ防災タイムズ(旧:みんなのBCP)」運営を通して、BCPの重要性や災害対策、企業防災を啓蒙する。主な業務はコンテンツマーケティングの戦略設計や製品広報、オンラインイベントの企画実行。


顧客は「営業」を求めていない

 現代は、情報が爆発的にあふれかえる時代です。インターネットを開けば、ありとあらゆる情報が手に入り、誰もが手軽にアクセスできるものになりました。

 少し前までは、何かを知りたい、あるいは解決したい課題があるときには、詳しい人に話を聞いたり、専門書を読むのが一般的でした。しかし、今はどうでしょう。例えば、新しい業務支援ツールを導入したいと考えたとします。以前なら、複数のベンダーに問い合わせて、営業担当者から説明を受けるのが普通でした。しかし、今の顧客は違います。彼らはまず、インターネットで情報収集を始めます。比較サイトやレビュー記事を読み、導入事例を参考にしながら、自分たちで課題解決を図ろうとするのです。

 顧客は情報収集から課題解決まで、以下のように自ら主体的に行います。

  1. 業務課題を発見し、解決策を求めて検索
  2. 検索結果から、ツール導入が課題解決につながると気付く
  3. ツール情報を集めるため、レビューサイトや比較サイトへ
  4. 機能や料金を比較検討し、2〜5つの候補ツールを選ぶ
  5. 候補ツールのWebサイトで資料や動画、導入事例をチェック
  6. 自社に最適なツールを決定し、無料トライアルを試す
  7. 課題解決できると確信し、ツールを導入(契約)

 また、生成AIの波もマーケティングの常識を変えつつあります。例えばこれまでのGoogle検索では「青いリンク集」だった検索結果に、AIが生成した「答え」が表示されるようになりました。つまり、Webサイトにアクセスしなくても情報が得られるようになったのです。

 これまで、多くのマーケターたちはコンテンツマーケティングを実践し、SEOを駆使して検索結果に自社サイトを食い込ませ、集客をしてきました。今後はそれが通用しなくなります。

 Google検索は長年、検索クエリ(ユーザーが入力するキーワード)とWebページの内容を照合する技術(ランキングシステム)に基づいて検索結果を表示してきました。しかし、近年ではAI技術、特に大規模言語モデル(LLM)と呼ばれるものが導入され、検索結果の表示方法に変化が見られます。

 LLMは、大量のテキストデータを学習することで、人間が使う言葉の意味や文脈を理解する能力を獲得しています。Google検索では、このLLMを活用することで、検索クエリの意図をより深く理解し、関連性の高い情報を検索結果として表示できるようになりました。

 そのため企業のマーケターは、コンテンツマーケティングでこれまで以上に顧客に有益な情報をコンテンツ化し提供することが求められます。

 顧客が求める情報を、より深く、分かりやすくコンテンツ化することで、顧客が求めるタイミングでAIがおすすめし、課題解決を支援し、信頼関係を築き、自社サービスの購入につなげてくれます。

TMMにおけるコンテンツマーケティングの目的

 前回お伝えしたように、TMMは顧客起点で顧客生涯価値(LTV)を最大化することを目的とした、トヨクモ独自のマーケティング戦略です(関連記事:「『THE MODEL』から脱却 それでも売上高5期連続120%以上を維持する私たちがやっていること」)。従来のTHE MODEL型の手法とは異なり、リード獲得やインサイドセールスを重視せず、「No form,No spam,No cold call」をバリューとして掲げ、顧客が求める情報を、求めるタイミングで提供することを目指しています。

 TMMにおけるコンテンツマーケティングの目的は「顧客の課題解決支援」と「顧客との信頼関係構築」です。これらの目的を達成するためには、以下の3つの要素が重要になります。

  1. Customer Issue(顧客の課題):顧客が抱える課題は一つではありません。状況によって異なる課題を深く理解することが重要です。例えば、「安否確認サービス2」の顧客を例に挙げると、地震発生時の安否確認自動化、複数災害発生時の対応、安否確認後の事業復旧連絡など、顧客の状況によって課題は異なります。
  2. Customer Moment(顧客のタイミング):顧客が求める情報は、状況によって変化します。課題に直面した時、解決策を検討している時、製品・サービスを比較検討している時など、顧客のタイミングを捉え、適切な情報を提供する必要があります。
  3. Customer Value(顧客の価値):顧客が求めている価値は一つではありません。問題解決、情報収集、知識習得など、ニーズによって異なる価値を提供する必要があります。

 これらの3つの要素を考慮することで、顧客の課題解決につながり、顧客にとって本当に有益なコンテンツを提供することができます。そして、有益な情報を提供し続けることこそが、ベンダーと顧客の信頼関係を構築する上で最も重要な要素となるのです。

価値あるコンテンツを作り、届けるために

 ここまで説明した通り、情報化時代のマーケティングにおいて、コンテンツマーケティングは企業の成長に欠かせません。しかし、多くの企業がコンテンツ制作に苦労し、思うような成果を上げられていないのが現状です。その原因の一つに、誰に(Who)、何を(What(何を)届けるのか、解像度が低いことが挙げられます。

ターゲット顧客(Who)を明確にする

 コンテンツ制作において、まず取り組むべきは自社サービスのターゲット顧客「Who」を明確にすることです。彼らが抱える課題やニーズを深く理解することが、価値あるコンテンツ制作の第一歩となります。

 ペルソナとカスタマージャーニーを設計することで、ターゲット顧客への理解を深めることができます。

  • ペルソナ:年齢、性別、職業、趣味、ライフスタイル、価値観などを具体的に設定した架空の理想的な顧客像
  • カスタマージャーニー:顧客が商品やサービスの購入に至るまでの行動プロセスを可視化したもの

 契約の傾向やアンケート、事例取材を参考に、企業規模や業種、職種、サービスの利用状況別に複数のペルソナ、カスタマージャーニーを設計します。

安否確認サービス2のペルソナ・カスタマージャーニー(画像提供:トヨクモ、以下同)

サービスが提供する価値(What)を明確にする

 次に、自社サービスが顧客にどのような価値(What)を提供しているのかを深く理解しましょう。顧客がサービスを利用することで、どのような課題を解決できるのか、どのようなメリットを得られるのかを、顧客の体験や言葉でまとめましょう。

 これにより、自社サービスのバリュープロポジション(顧客ニーズが高く、かつ競合他社が提供できない独自の価値)も分かります。

安否確認サービス2のバリュープロポジション

 なお、コンテンツマーケティングにおいてバリュープロポジションは、キーメッセージとして非常に重要な役割を果たします。

キーメッセージはペルソナ・カスタマージャーニーに一つの要素としてまとめる
  • バリュープロポジションの役割
    • 顧客の共感を生む:バリュープロポジションは、顧客の課題やニーズ、欲求に直接訴えかけるため、共感を呼びやすく、コンテンツへの興味関心を高めます。
    • メッセージの一貫性を保つ:バリュープロポジションをキーメッセージとすることで、コンテンツ全体に一貫性を持たせることができます。これにより、顧客は企業が伝えたいメッセージを理解しやすくなります。
    • 競合との差別化を図る:バリュープロポジションは、競合他社との違いを明確にするため、顧客に自社サービスを選ぶ理由を効果的に伝えることができます。
    • 具体的な行動を促す:バリュープロポジションは、顧客に具体的な行動(資料請求、問い合わせ、購入など)を促すための強力な動機付けとなります。

 このように、顧客に価値あるコンテンツを作成するためには、バリュープロポジションを明確にし、それをコンテンツに適切に反映させることが重要です。

 一方で、価値のあるコンテンツを作成しても、顧客に届かなければ意味がありません。顧客が普段どのチャネルで情報収集を行っているか過去のデータを調査し、適切なチャネルで情報を発信する必要があります。

 これまでコンテンツマーケティングに取り組んでこなかったマーケターは、ぜひ、さまざまなチャネルを試してみてください。記事、動画、SNS、メールマガジン、ウェビナー、ホワイトペーパーなど、あらゆる可能性を検討しましょう。試行錯誤を繰り返すことで、どのチャネルが顧客に最も効果的に届くかが見えてくるはずです。

コンテンツが生み出すデータの力を活用してさらなる成果へ

 コンテンツはデータを生み出す源泉であり、データはコンテンツの効果を測定し、改善するための材料となります。つまり、コンテンツとデータは相互に作用し、マーケティング活動を進化させるための重要な要素なのです。

データとコンテンツの関係

 「マーケティングが事業成長につながらない」「営業主体で売り上げが伸び悩んでいる」といった課題を抱える企業のマーケティング担当者は、顧客に価値のある情報(コンテンツ)を提供し、顧客課題の解決、顧客からの信頼獲得を目指し、さらに、そこで得られたデータを活用することで、情報化時代、AI時代の事業成長につながるマーケティングを実践しましょう。

 次回、第2部ではトヨクモがコンテンツマーケティングを通じて1100コンテンツの制作から得られたデータと成果を紹介します。

※この連載に記載している内容は、2025年2月時点の情報に基づくものです。

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