サードパーティーCookie廃止で“オワコン”SEOが再注目される理由CMOは知っておきたいSEOトレンド

GoogleはWebブラウザ「Chrome」におけるサードパーティーCookie廃止を撤回しましたが、プライバシー保護の流れには変わりがありません。Webサイトやデジタル広告などの領域を担うマーケターは、現状維持というわけにはいかないでしょう。もちろん、SEOもです。

» 2025年02月21日 08時00分 公開
[田中雄太デジタルアイデンティティ]

 2024年7月にGoogleはChromeブラウザでのサードパーティーCookie完全廃止計画を撤回しました。しかし、世界的なプライバシー保護の流れは依然として変わりません。Googleは代替技術を探っていますが、いずれにせよ従来のようなサードパーティーCookieの活用は困難になると予想されています。

 さらに、2025年1月のトランプ大統領就任後、Googleの姿勢変化が顕著になっています。同社は就任式に100万ドルを寄付した他、Googleマップで「メキシコ湾」を「アメリカ湾」に改名。さらに、多様性、公平性、包摂性(DEI)施策の一部見直しを行うなど、トランプ政権への忠誠を示す動きが続いています。

 このような変動の中、果たしてサードパーティーCookie廃止によるデジタル広告やSEOはどうなるのでしょうか。本記事ではその概要を解説します。

サードパーティーCookie廃止がデジタルマーケティングにもたらす弊害

 まずはサードパーティーCookieの廃止によってもたらされる全般的な変化についてご紹介します。

 代表的な変化の一つが、リターゲティング広告の実施が難しくなることです。従来の広告手法はユーザーの行動履歴に基づいて高精度のターゲティングを行ってきましたが、サードパーティーCookieが使えなくなるとドメインを横断したユーザーデータの収集が困難になり、広告の精度と効果が低下します。

 もう一つ、大きな変化が起こるのが、広告効果測定の領域です、特にアトリビューション分析やフリークエンシーコントロールの精度低下は避けられません。また、ユーザーの特性分析の難易度が上がり、パーソナライズされたコンテンツの提供も困難になるでしょう。特にポイントサイトなどのサードパーティーCookie依存度の高いサービスは多大な影響が懸念されます。

 以上のような変化はマーケターにとって決して小さくない課題であり、これまでとは異なる戦略が求められることになります。

オワコンとも言われたSEOが再注目される?

 サードパーティーCookieの廃止はSEO担当者にも無関係ではありません。というよりも、先述したさまざまな弊害の結果として、SEO対策の重要性が高まることが考えられます。

 これまでの行動ターゲティング広告がCookieの制限を受けることで、企業は新たなユーザー獲得戦略を迫られることになります。その結果として検索エンジン経由でのオーガニック流入がこれまで以上に重要な役割を担うことが予想されます。

 SEO対策は、広告のような一時の効果狙いの“掛け捨て”ではありません。検索結果ページ上位表示を達成し、適切なメンテナンスを定期的に施すことで、安定的な集客が実現できるのはSEO対策の最大のメリットと言えるでしょう。

 確かに広告の方が即効性があり、SEO対策は上位表示まで中長期的な取り組みが必要というデメリットもあります。それでも、SEO対策は集客の基礎とも言える施策ですので、取り組まない手はありません。広告の効果が相対的に下がるのであれば、SEO対策はあらためて注目される可能性があるでしょう。

 今後、企業は広告だけに頼るのではなく、SEO対策を強化し、質の高いコンテンツ作成、適切なキーワード戦略、ユーザー体験の向上など、SEOの基本に立ち返ることが求められます。

ファーストパーティーデータの活用が必須に

 また近年、ファーストパーティーデータの重要性が急速に高まっています。

 ファーストパーティーデータとは、自社サイトやアプリを通じて直接収集した顧客情報のことです。会員登録、メルマガ購読、アンケート回答などから得られるデータが該当します。これらのデータは、Cookieに頼らずに取得できるため、今後のマーケティング戦略において不可欠となります。

 この流れを受けて、リテールメディアが注目を集めています。リテールメディアとは、小売業者が保有する顧客データを活用し、精度の高い広告配信や情報提供を行うプラットフォームです。日本ではセブン-イレブン、イオン、楽天、ヤマダデンキ、カインズホームなどの大手小売業者がすでにリテールメディア事業を展開しています。これらの企業は豊富な顧客データを基にワンツーワンマーケティングの精度を向上させています。

 しかし、リテールメディアの急速な成長に伴い、グローバルな課題も浮上しています。特に問題視されてきたのが、レポーティングやアトリビューションの計測方法がプラットフォーム各社でバラバラなことです。そこで、欧州と米国のオンライン広告業界団であるIABは、2024年12月に実店舗内リテールメディア標準をリリースしました。

 このような変化に適応するためにも、企業はファーストパーティーデータの収集と活用に注力し、SEO戦略を見直す必要があります。顧客ニーズの理解や施策の最適化など、データを活用した戦略立案が今後のマーケティング成功の鍵となるでしょう。

プライバシー保護の進化と持続可能なインターネット社会

 最後にこれまでのサードパーティーCookieをめぐる経緯の整理と、今後の展望を簡単にまとめます。

 プライバシー保護の流れは、2017年のEU一般データ保護規則(GDPR)施行を皮切りに、2020年の米国カリフォルニア州消費者プライバシー法(CCPA)、2022年の日本の改正個人情報保護法と、世界的に加速してきました。

 この潮流の中、Appleは2017年にIntelligent Tracking Prevention(ITP)1.0を発表し、段階的に強化。2021年にはApp Tracking Transparency(ATT)を導入しました。一方、Googleは2019年にプライバシーサンドボックス構想を発表し、2022年末までにサードパーティーCookieを廃止する計画でしたが、度重なる延期を経て2024年7月22日に廃止撤回を発表しました。

 今後、GoogleがChromeにATT類似の仕組みを導入する可能性はありますが、ユーザーの許諾率は20〜30%程度と予想されています。実装方法次第ではさらに低下する可能性があり、ターゲティングや計測での使用に耐え得るか、疑問視する向きもあります。

 しかし、この変化は持続可能なインターネット社会を築くための重要なステップでもあります。正しい倫理観と透明性を持ってデジタルデータを活用し、新しいマーケティング手法を構築することが、これからの時代には求められています。マーケターとしては未来志向の取り組みで、ユーザーに信頼されるデジタルエコシステムの中で、正しいマーケティング活動を行っていきましょう。

執筆者紹介

田中雄太

田中雄太さん

たなか・ゆうた デジタルアイデンティティ SEOエヴァンジェリスト、コンサルタント。SEO集客からの売り上げ・問い合わせ増加など、セールスファネル全体のコンサルティングが可能。『薬機法管理者』の資格を有し、表現の規制が厳しい薬機法関連分野のマーケティングにも精通。


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