生成AIの活用、意外と進んだマーケティング部門と進まない営業部門 どうして差が生じた?HubSpot「日本の営業に関する意識・実態調査2025」

HubSpot Japanが実施した「日本の営業に関する意識・実態調査2025」のポイントを、記者説明会の内容を基に紹介する。

» 2025年02月19日 20時00分 公開
[ITmedia マーケティング]

 HubSpot Japanは、営業組織の現状と課題を明らかにし、日本の営業組織の次のステップを考察することを目的に、「日本の営業に関する意識・実態調査」を2019年より毎年実施している。6回目となる2025年版の調査は2024年11月14〜15日に実施。今回初めて、営業活動に関する年代別の意識の差や価値観について、B2Bの売り手と買い手双方の視点から明らかにした。調査対象は売り手1545人(経営者、営業責任者、営業担当者、各515人)、買い手515人。

 本稿では、2025年2月18日に開催された同調査結果に関する記者向けの説明会の内容を基に、ポイントを紹介する。

売り手にも買い手にも世代ギャップ どう捉えるか、HubSpot流の提言は?

 2025年版の調査で明らかになったポイントは以下の3点だ。

  1. 20代の約7割が、営業を転職や起業の足がかりと考えて営業職に就いている。対して、30代以上は営業というキャリアを極めていく意識が見られた。
  2. CRMソフトウェアの導入率が緩やかに増加している。生成AIの認知と活用には世代別のトレンドがある。
  3. 44歳以下の買い手は45歳以上と比較して幅広い要素を重要視しながら購買意思決定を行う傾向があることが分かった。

 営業職を選んだ理由として最も多かったのは「やりがいがありそうだから」(26.7%)で、「希望していないが、会社から指定された」(24.5%)、「自分の能力や性格を生かせるから」(21.8%)などが続いた。

営業職を選んだ理由(出典:HubSpot Japan「日本の営業に関する意識・実態調査2025」、以下同)

 営業職を選んだ理由を、回答者が営業職についた時期別で見ると、2010年以降に営業職についた人の回答では「自己成長のため」「安定した収入のため」といった項目がランクインしているのが目立つ。背景として、2008年のリーマンショックを契機とした就職難で仕事の選び方に対する意識が変わり、自己成長しなければ安定した収入が得られないといった危機感が持たれるようになったのではないかとHubSpotは推測している。

営業職に就いた時期別に見た、営業職を選んだ理由

 営業責任者と営業担当者に、休憩時間や通勤時間を除く1日の業務時間を100%とした場合に1日の時間をどのように使いたいか聞くと、全体では55.1%の時間を顧客とのコミュニケーションに使いたいと考えていることが分かった。

理想的な時間の使い方

 新しいテクノロジーやツールの導入状況については、生成AIの認知度は全体の85.5%と高かったものの、実際に活用したことがある人はわずか28.9%にとどまった。

生成AIの認知と活用

 クラウド型またはインストール型のCRMツールの導入状況は今回37.2%となり、前回調査時(36.2%)から微増となった。

CRMの導入状況

 買い手側の意識については、インターネットの普及が飛躍的に進む前に育った45歳以上の世代とインターネット普及機または普及後に育った44歳以下の世代を比較した。商品やサービスを購入する際にどのようなことを重視するのか聞いたところ、全体では価格、コストパフォーマンス、機能の順に高かったが、44歳以下の回答者は多くの項目で45歳以上の回答者の割合を上回り、幅広い項目を重視していることが分かった。

商品・サービス購入時の重視ポイント

 続いて、どのような印象を持つ会社のサービスや商品を購入したいか、提供企業の印象に絞って買い手側の考えを選択式で尋ねたところ、世代共通で最も重視されている項目は「信頼できること」だった。年代別では45歳以上の回答者は「製品の品質が高いこと」を最も重視しており、44歳以下の回答者と比べて約11ポイント高い値となった。一方で44歳以下の回答者は「データや個人情報の保護をしっかり行っている」「従業員を大切にしている」といった項目が45歳以上の回答者と比べて高くなった。

どのような印象を持つ会社のサービスや商品を購入したいか

 商品やサービスを購入する際の情報集源について、世代共通で最も参考にされている情報源は「インターネットでの検索」だった。逆に世代間のギャップが最も大きかったのは「インターネット上の口コミやレビュー」「SNSの情報など」だった。また、44歳以下の回答者は「特になし」以外の全ての項目に対して「参考にしている」と答えた割合が高く、幅広い情報源を使って情報収集を行っていることが分かった。

商品やサービスを購入する際の情報集源

 次に購買プロセスにおいて重視することを3択で尋ねた。全体としては「営業担当者からしっかりと話を聞けること」が57.1%と最も重視されていた。44歳以下の回答者においても、営業担当者からしっかりと話を聞けることは45.1%でトップだったが、同時に「購入完了までがスピーディーであること」と回答した人の割合も高く、45歳以上の回答者を上回った。

購買プロセスにおいて重視すること

 営業担当者を介さない購買について、オンラインの簡単な決済のみで商品やサービスを購入したいかを尋ねた結果、「したい」と考える割合は全体の32.0%と約3割にとどまった。ただし、44歳以下の回答者に絞ってみると、約6割が営業担当者を介さないプロセスを肯定しており、45歳以上の回答者の割合に対して約2倍となった。オンラインの簡単な決済のみで購入を行うかどうかは、もちろん商材の性質や価格などにもよる。それでも、シンプルな聞き方でこれだけの差が出ていることから、世代別でスタンスの差があるのは間違いなさそうだ。

購買プロセスで「セルフサービス」を希望するか

 ビジネスでの購買プロセスにおいて、買う側の情報収集の必要性を尋ねた結果、買い手の約7割が情報収集の必要性が年々高まっていると感じていることが分かった。特に44歳以下の回答者の82.4%がそう考えており、購入者主導での情報収集を重視していることが分かった。

購入者主導での情報収集の必要性

 最後に商品やサービスを購入する際に営業担当者が必要だと思うのはどんなときかを聞いたところ、世代間のニーズギャップが大きかったのは「商品やサービスの基本的な情報を知りたいとき」だった。45歳以上の回答者においては、この項目の回答割合が1位なのに対し、44歳以下の回答者では5位という結果となった。また、44歳以下の回答者の傾向として、「自社の課題要望に合わせた提案が欲しいとき」「自社で抱える課題について相談に乗ってもらいたいとき」などに営業担当者が必要だと考えている傾向があり、営業担当者に情報提供以上の動きを期待する傾向が見えた。

営業担当者への期待

 今回の調査結果でとりわけ興味深かったのは営業における生成AIの活用状況だ。HubSpot Japanが2024年12月に発表した「日本のマーケティングに関する意識・実態調査」の結果によると、マーケティング部門では業務支援ツールとしての生成AIの評価が高まって、活用も進んでいる(関連リンク:「生成AIを業務で使わないマーケターはもはや3割以下 御社はどうする?」)。これと対照的に生成AIを活用している営業担当者はまだ少ない。この点について質問すると、HubSpot Japanマーケティングチーム シニアマネージャーの土井早春氏は、「マーケティングの部門では必要に迫られて生成AI活用が進んでいるところも大きいと思ています。Googleなどのプラットフォームが生成AI対応している中、情報発信や日々の業務で生成AIを無視することは難しくなっています。一方で営業の側では、生成AIの進化でサイトのトラフィックが下がってしまっているといった実務的なインパクトはまだ受けていない。今まで通りの業務のアプローチを続けていても、現段階ではまだそれでワークするというような意識があるのではないかと感じています」と推察した。

 HubSpotでも、マーケティングチームが比較的早くから生成AIを活用してきた経緯があり、その動きを営業側に広げていくという活動も行ってきた。マーケティングチーム シニアディレクターの伊佐裕也氏は、「営業としてもどのようにAIを活用したらいいのか悩んでる方は多いと思います。HubSpotの営業でも顧客情報を入れられない中で実際どうやって生成AIを使えばいいのかという議論がありましたが、例えば業界についての調査で使うだけでもすごく便利だったというように、ベストプラクティスがチームの中で広がっていきました」とコメントし、活用が進まない企業に対しては「まずは小さくてもAI活用の成功体験を作り、社内の抵抗感を減らすことが大事だと思います」とアドバイスを送った。

HubSpot Japanの伊佐氏と土井氏

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