SXSWで開催された「Female Quotient」のイベントにおいて、Jaguar Land Roverの米国CMOは、自身が直接関与していなかったリブランディングに対する反発をどのように乗り越えたかについて語った。
レストランのメニュー改悪、品薄、物議を醸したリブランディング――。これらは、SXSWに合わせて開催された、ビジネス界の女性向けメディアプラットフォームであるThe Female Quotientの主催イベントで、マーケティングリーダーたちが語ったお題の一部だ。いずれのケースでも、つまずきは完全な失敗ではなく、むしろ、より強固なブランドを生み出すための試練として語られた。それらはブランドのパーパス主導型ミッションを実現する助けとなったり、チームのレジリエンスを強化するきっかけになったりしたという。
「私たちはこの経験を経て、より強くなりました」と語るのは、Jaguar Land Rover(ジャガー・ランドローバー。以下、JLR)北米法人のCMO(最高マーケティング責任者)であるシャーロット・ブランク氏だ。同氏は2024年にJaguarのリブランディングが物議を醸した際、その反発をどのように乗り越えたかについて、今回初めて公の場で次のように語った。
「困難な状況をチームで乗り越えると、結果的に以前よりも幸福感が増し、一つの家族のように感じるものです」
3月の「女性史月間」に開催された女性だけのパネルディスカッションで語られたエピソードの中でも、ブランク氏の話は最も新しく、かつ最も強烈なものだった。この高級自動車メーカーのブランドアイデンティティー刷新は、全車種を電気自動車(EV)へと移行する大規模な戦略の一環として発表された。2023年11月に公開されたティーザー動画では、多様な人々が未来的な衣装を身にまとい、個性的なポーズを取る様子が描かれていた。このカラフルなマーケティング手法は自動車業界としては異例であり、伝統的な高性能車のブランドというよりも、前衛的なファッションのような雰囲気を醸し出していた。そして何よりも特徴的だったのは、この動画に「車が一切登場しなかった」ことである。
オンラインでの反応は瞬く間に広がり、否定的な声が相次いだ。ブランド公式チャンネルに寄せられる消費者の不満は通常の水準をはるかに超え、コンテンツの制作に直接関与していなかったブランク氏や、英国の従業員に対する個人攻撃にまで及んだ。このような標的を定めた嫌がらせは、近年の業界では珍しいことではない。Bud LightやTargetが「ウォークネス」、つまり進歩的な価値観を支持していると見なされ、ボイコットに発展した事例は記憶に新しい。
「人々がいかに残酷で個人的な攻撃をするのかを目の当たりにしました。あまりにもひどい状況でした」とブランク氏は語った。
短期的には混乱が続いたものの、JLRの経営陣はブランク氏を支えた。さらに、12月に開催された世界最大級の現代アートフェア「アート・バーゼル」で正式に「Type 00」モデルが発表されると、ブランドに対する世間の見方も変わり始めた。
SNS上で激しく批判される中では「悪評も宣伝のうち」という格言は信じがたい状況だったかもしれない。しかし、JLRが世間の注目を集め続け、製品がより明確に打ち出されるにつれて、徐々にポジティブな方向へと認識を転換することに成功した。しかも、従来型の大規模なローンチキャンペーンに多額の予算を投じることなく、それを実現したのである。
「米国では広告費を一切使いませんでした。たった1本のティーザー動画と、英国からXに投稿された1つのポストだけで、あれほどの注目を集めたのです。そして、12月初旬に(マイアミ アート ウィークで)コンセプトカーを世界的に披露することに合意しました。ありがたいことに、そしてなにしろ素晴らしい車なので当然ながら、メディアはこぞって称賛してくれました。メディアはこぞって称賛してくれました。その結果、全てを好意的なニュースへと転換することができたのです」(ブランク氏)
ブランク氏は、リニューアルされたジャガーの米国市場におけるプロモーションが順調に進んでいると述べた。2月に開催されたNBAオールスター・ウィークエンドでは流麗なデザインのジャガーが展示され、同社は「トンネルウォーク」のイベントを主催した(外部リンク/英語)。トンネルウォークは、バスケットボール選手がロッカールームからコートへの通路で最新のファッションを披露する場として知られている。
「私たちは、オリジナリティーがあること、クリエイティブであること、前衛的であること、反骨精神があること、派手であること、超スタイル重視であること.といった核心的な要素を生かしながら、それをNBAに合わせて、より米国市場向けにアレンジすることができました」とブランク氏は語る。
このイベントには、Panera Bread、Vuori、そして乳児用ミルク市場の革新企業Bobbieなどの幹部も登壇し、消費者の反発を招きかねない問題をいかに乗り越えたかについて、それぞれの経験を語った。
例えばBobbieは2022年に発生した粉ミルクの全国的な供給不足に直面した(外部リンク/英語)。当時、同社はまだD2C(直販)モデルを確立する途中で2つの選択肢を迫られていた。すなわち、短期的な成長のために製品を求める新規顧客を受け入れるか、それとも既存の顧客の注文を確実に履行するかという決断である。
「私たちは7カ月間オンラインストアを閉鎖し、定期購入者のために在庫を確保することを選びました」と語るのは、Bobbieの最高ブランド責任者であるキム・ゲビア・チャペル氏だ。
プレッシャーの大きいこの決断は、チームメンバーの多くが子を持つ親であることが影響を与えた。そして最終的に、「Bobbie Peace of Mind」という名のブランドプロミス(外部リンク/英語)を生み出すきっかけとなった。この誓約により、同社は定期購入者の赤ちゃんが1歳になるまで必要な分のミルクを確保することを保証している。
「この取り組みを行っているのは、また供給不足が起こるかもしれないからです。残念ながら、業界にはもはや明確なセーフティーネットが存在しません。そのため、私たちは親御さんのことを第一に考える企業として、この方針を事業運営の基本とするようになりました」とチャペル氏は語る。
その他、近年大きな混乱に見舞われた業界の一つに、ファストカジュアルレストランがある。この業界は、価格に敏感な消費者への対応や、急速に進化するテクノロジーへの適応に引き続き苦慮している。Panera Breadは2024年4月に大幅なメニュー改訂を実施し、提供アイテムを約30%削減した。その中には一部のベジタリアン向けメニューも含まれていた。このような変更は消費者の不満を招きやすいが、同時にビジネスにも直接的な影響を及ぼす。
実際、Panera Breadはほぼ一夜にしてデジタルトラフィックが急落した。これは、最高デジタル責任者であるミーナクシ・ナガラジャン氏にとって大問題だった。ナガラジャン氏によると、スープとサンドイッチを提供する同社はこの状況に対応するため、ブランド中心のメッセージ戦略を見直して「顧客本位の姿勢を強める意識」を優先する方針へとシフトした。そして、メニュー変更によって消えた商品があることを率直に認めると同時に、顧客に代替メニューを提案することを重視した。このアプローチは単なるメニュー変更への対応にとどまらず、同社のマーケティング戦略全体において重要な教訓をもたらした。
「私はこの変化をとても気に入っています。なぜなら、それによって私たちは迅速な方向転換を迫られ、機能強化や顧客の購買体験の見直し、そしてマーケティングをより"ゲストファースト"の視点で考えるきっかけになったからです」とナガラジャン氏は語った。
© Industry Dive. All rights reserved.