これからのB2Bマーケティングに必須の「MOps」の役割とは? 旭化成エレクトロニクスに聞くグローバルでの事業拡大を目指して

市場環境が刻々と変化する中で、顧客ニーズを捉えるために新しいマーケティング手法やツールを取り入れる必要がある。そうした取り組みをうまく回すために組織の在り方から見直すのが「MOps」の考え方だ。MOpsを実践する旭化成エレクトロニクスに話を聞いた。

» 2024年10月11日 07時00分 公開
[三ツ井香菜ITmedia マーケティング]

 旭化成グループのマテリアル領域の一角を担う旭化成エレクトロニクスは、センシングデバイスや集積回路などの電子部品を開発・製造している。同社のセンシングデバイスはさまざまな産業機器はもとより、自動車やスマートフォン、オーディオ機器など身近な製品にまで、幅広く搭載されている。

 かつての旭化成エレクトロニクスは主に日本のメーカーを納入先としていたが、近年は欧米を中心とする海外メーカーのニーズが拡大している。今後の事業成長を見据えれば、国内の引き合い依存を脱して海外での新規顧客をさらに獲得し、新たな価値提案を行っていくことが必要不可欠だ。そこで、グローバル展開がマーケティング活動の重要テーマとなっている。

 しかし、実際問題として海外における旭化成エレクトロニクスの認知度は高いとは言えず、営業のリソースも小さい。加えて、競合となる欧米の大手半導体企業はすでにデジタルマーケティングを活用して高い成果を上げている。

 勝つためにはまず、同じ土俵に立たなければならない。そこで、グローバルスタンダードの戦い方ができる体制を整えるべく着手したのが、MOps(Marketing Operations)機能を持つ組織の立ち上げと、高度な機能を持つツールの導入だ。

 具体的にどのような取り組みを行ってきたのか。マーケティング&セールスセンター デジタルマーケティング部の池原章浩氏と井上望氏に、詳しく話を聞いた。

「MOps」とはどんな役割を担う組織?

池原章浩氏と井上望氏

 旭化成エレクトロニクスは2020年にデジタルマーケティング部を設立し、現在はフィールドマーケティンググループとマーケティングオペレーション(MOps)グループで役割を分担している。フィールドマーケティンググループが担うのは、マーケティング施策の企画や実行だ。MOpsグループは、その施策をマーケティングオートメーション(MA)などのシステムに実装し、得られた結果を分析するためのダッシュボードを構築したりする役割を担う。

 「MOpsグループは縁の下の力持ちというイメージです。単にフィールドマーケティングに言われた通りに施策を実装するのではなく、その施策を通して何をしたいのかを理解し、効果測定など、その先のことまで考えながらオペレーションを最適化しています。施策のために使う各種のマーケティングツールには専任の担当者が付き、それぞれのツールについての最新情報を収集して、フィールドマーケティングに新しい施策や効果測定方法の提案なども行っています」と井上氏は話す。

 分析ダッシュボードの構築をMOpsが担うことも重要だ。分析業務にかかる負荷が重ければ、フィールドマーケティングは十分な振り返りの時間が取れないままどんどん施策を打たなければならず、失敗を繰り返す事態になりかねない。そのため、MOpsが分析の基盤を作り、データを一緒に見ながら次の一手を考えられるようにしている。

 このように、旭化成エレクトロニクスでは組織の機能を分けてそれぞれの役割を明文化することで、業務を属人化させずに組織をスケールしやすい体制にしている。

グローバルスタンダードの型に倣うため、新たなツールを導入

 現在は円滑にマーケティングオペレーションを進められている、だが、「当初は見よう見まねで活動していたために、なかなか成果が出ませんでし。そこで、まずはグローバルスタンダードの型を取り入れるところから始めようと、リスタートを切りました」と、井上氏は新組織立ち上げ時の経緯を打ち明けた。

 デジタルマーケティングに本格的に取り組むためには、リードの獲得から売り上げまでをトラッキングして、しっかりと効果測定を行える環境を作る必要があった。しかし、当時使用していたMAツールではSFAとの連携が思うようにできなかったため、ツールの入れ替えを検討することになった。旭化成エレクトロニクスはすでにコンテンツの運用管理のために「Adobe Experience Manager(以下、AEM)」を利用していたこともあり、同じブランドである「Adobe Marketo Engage」の導入を決めた。

 AEMはコンテンツを多言語展開できる機能を持つため、旭化成エレクトロニクスはこれを利用している。それに合わせてMarketo Engageの出し分け機能を使って、メールマガジンも多言語展開するようにもなった。また、特定のターゲットに向けた施策の実行がしやすくなり、メール配信だけでなく、Zoomと連携してプライベートウェビナーも多く開催するようになっている。

 「ABM(アカウントベースドマーケティング)施策として、アカウントを限定した特別感のあるウェビナーを開催することで、そこから実際に新規リードの獲得ができています」(井上氏)

営業からの信頼が少しずつ得られるように

 ウェビナーから得られたリードは質が高く、営業からも喜ばれているという。とはいえ、マーケティング施策の価値を営業に理解してもらうのは一筋縄ではいかなかった。

 「今はマーケから、この企業に個別のウェビナーをやりませんかと働きかけています。『その企業のことはもうわかっているから必要ないよ』と言われても、そこをなんとかやらせてほしいと言って開催すると、これまで付き合いのなかった部署から問い合わせがあることもしばしばあります。そうした成果を積み重ねることで、営業側からも少しずつ頼ってもらえるようになっています」(池原氏)

 信頼を得るために、営業とMQL(Marketing Qualified Lead)の定義をすり合わせ、その質を高めていくことで営業が求めるリードを渡せるようにすることも重要だと考えている。まずはトップダウンで進めることで、とにかくマーケの価値を感じてもらうことが、営業とマーケの連携の第一歩と言える。

 旭化成エレクトロニクスではデジタルマーケティング部の発足以降、案件獲得数は増え続けており、3年間のCAGR(年平均成長率)50%増を達成した。案件の海外比率も大きく増加しており、特に中国や欧米での案件数の増加が顕著だ。

 「旭化成」の名は非常に高い認知度を誇るが、海外では国内ほど知られてはいない。まずは会社そのものを知ってもらう、Webサイトや資料の内容も各国に合わせてわかりやすくカスタマイズするなど、海外特有の課題に合わせて進めているところだ。

 ここまでの成果を上げるのに、井上氏はMarketo Engageのユーザー会に参加して得た知見が非常に役立ったと振り返る。実は井上氏はもともと開発部門に勤めるエンジニアで、回路設計を担当していた。そのため、現職に就いた直後はマーケティングに関して全くの初心者で、分からないことも多かった。しかし、ユーザー会に参加して実際に業務でツールを使用している人同士で情報交換を行うことで、いくつもの課題や悩みが解決できたという。

 「まだまだ課題は山積み」と井上氏は謙遜するが、取り組むべきことは明確なので、今後もそれをどんどん進めていきたい考えだ。最後に、これからツールを活用してマーケティングを進めるマーケターにアドバイスを求めると、

 「お伝えしたいのは、最初から自己流で進めようとするのではなく、まずはそのツールの使い方や仕様をきちんと勉強して理解すること。その上で、自社に合わないところをカスタマイズし、最適化していくのがいいと思います」(井上氏)

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