VTuberを起用したライブコマースでモノは売れるのか? au PAY マーケットの挑戦熱量の高い「ファンダム」に期待するもの

auコマース&ライフが運営する総合ショッピングサイト「au PAY マーケット」におけるVTuber活用の取り組みについて取材した。

» 2023年11月16日 08時00分 公開
[鈴木朋子ITmedia]

 インターネットのライブ動画配信で商品やサービスを紹介しつつ視聴者に直接購入を促す「ライブコマース」が注目されている。配信中にチャットやSNSで視聴者と双方向のコミュニケーションを取ることで、エンゲージメントを高めながら直接的な収益につながる販売手法であり、中国をはじめとするアジア圏では広く活用されている。

 日本や米国などでもライブコマースをどのように取り入れていくか、大手プラットフォームを含め、EC(Eコマース)事業を営む各社が試行錯誤している。そうした中、VTuber(仮想空間上で活動するバーチャルのキャラクターの配信者)を起用したライブコマースに取り組むのが、KDDIグループの総合ショッピングサイト「au PAY マーケット」だ。

ライブコマースはコスメやファッションだけじゃない

 au PAY マーケットは、KDDIのグループ企業であるauコマース&ライフが運営する総合ショッピングサイトだ。旧「DeNAショッピング」「auショッピングモール」を再編して2017年1月に「Wowma!」としてスタートし、2020年5月にau PAY マーケットにリブランディングしている。2021年から体験型サービスを開始し、2022年には傘下のプレミアムタイムセールサイトであった「LUXA」の後継サービスとして、グルメやファッション、インテリアなどの物販領域から旅行やレストラン予約などのサービスまでカバーするようになった。メイン顧客層は40代から50代の女性で、グルメとレディースファッションの人気が高い。

 auコマース&ライフ執行役員で事業推進本部本部長の中森健二氏は「われわれはまだ7年目のショッピングモールで、競合他社と比較すると事業規模も小さい。そこで、常にチャレンジャーとして新しい領域に切り込むような立ち位置で事業を運営しています」と語る。

auコマース&ライフの中森健二氏

 注力分野の一つがライブコマースだ。au PAY マーケットのライブコマースは、モバイルアプリ内の「ライブTV」から視聴する。配信者はタレントや女性アイドルグループ、お天気キャスターなどが務めている。ライブ配信画面にはショッピングカートボタンがあり、取り扱う商品をすぐに購入できる。

 ライブコマースといえば、コスメやファッションの販売に強いイメージだが、au PAY マーケットでは食べ物や飲み物などグルメの販売も好調だ。商品に合った演者を選んで企画を練ることは、売り手と買い手双方にとって重要になる。

 例えばau PAY マーケットでは餃子が特に人気の高いカテゴリーだが、いつもテレビで見ているお笑いタレントがおいしそうに餃子を食べ、自分の言葉で楽しそうに感想を述べている様子を見ると、見ている方もつい、つられて食べたくなってしまう。

 信頼できる人がお薦めすることで、もともと食べたいと思っていなかった人にも興味がわいてくる。演者の魅力が視聴者のニーズを掘り起こすとも言える。

VTuberが「推し消費」の一角を担う

 演者のカテゴリーの一つとして存在感を高めているのがVTuberだ。VTuberが配信する「ショッピングwithV」には14人(2023年10月時点)のVTuberが参加している。

 VTuberをキャスティングする最大の理由は熱量の高い視聴者、いわゆる「ファンダム」を抱えていることにある。「熱量の高いファンは共感性も高い。そのコミュニティーをライブコマースに呼び込める。さらに、Webの双方向性に長けていることもポイントです」と中森氏は語る。

 実際、お茶の販促にあるVTuberを起用したところ、ファンの若年層に飛ぶように売れた。直近3カ月の同店舗の流通実績と比較すると、705%の伸長率だ。

 「VTuberが配信中に飲んで、『絶対おいしいから買いなよ』と言ってくれて、ファンの方もこのVTuberが言うなら本当だと信じて買ってくださいました。信頼できる人が説明するならトライしてみる。その試したくなる気持ちを引き出せる熱量の高さは、VTuberが圧倒的に高いと考えています」(中森氏)

 視聴者の属性は配信者によって大きく変わる。一口にVTuberと言ってもZ世代限定で濃いファンを抱える人もいれば、全世代に人気がある人もいる。キャスティングはVTuberの事務所と協議して決めている。商品に合った人を紹介してもらうことも大事だが、ライブ配信のレギュレーションを順守できる人であるというのが大前提だ。

 「『推し消費』という言葉が普及している通り、コンテンツのファンは推しの周りのものを実際に購入する傾向があると感じています。VTuberはその一角を担う経済効果を出しています。VTuberは普段から動画配信外でのスーパーチャットやPR活動を盛んに行っているため、推し消費の傾向が顕著に出やすいのではないかと考えています」と中森氏は述べる。

 ライブ配信では、VTuberそれぞれが持つ世界観を壊さないように気遣っている。商品を押し売りするのではなく、推しを応援するファンの共感を得ることが購買につながるからだ。

VTuberの澄さんと千夜イチヤさんをゲストに迎えたライブ配信の様子。「大切な人へ 贅沢で美味しい贈り物特集」と題して、どら焼きやフルーツシャーベット、お茶漬けセットなどを紹介した。出演者の中で唯一リアルな人物であるMCのじゅん☆じゅんさんも紹介商品を実際に食べて感想を伝えた

 au PAY マーケットもライブコマース事業で苦戦を強いられていた過去があり、視聴と購入に結び付くものは何か、試行錯誤を繰り返してきた。検討を重ねる中でライブ視聴数だけでなく視聴時間の長さやコメントの数といった熱量の高さが重要だと分かった。そこで目を付けたのが、VTuberのファンとのコミュニケーション力の高さだ。

 「人気VTuberは途中で離脱されることが少なく、長時間見てくれる視聴者を呼び込むことができます。VTuberが何かリアクションするたびにコメント欄も埋め尽くされます。あまり注目されていませんが、すごく力のある業界であると認識しており、その後も定期的に起用させていただいています」(中森氏)

 au PAY マーケットでは視聴者数と視聴時間、いいねとコメント数を配信終了後に集計し、番組単位の評価を行っている。いいねとコメントの数をファンの熱量の高さと捉えると、VTuberの配信は熱量が高い。具体的に言うと、「ショッピングwithV」は他番組と比較して、視聴者数が128%、視聴分数のが348%、流通額が470%(2023年7月放送分)という好結果を収めている。多くのVTuberは高い頻度で長時間の配信を行っており、ファンのチャットを読みながら配信するので、配信中に密接なコミュニケーションが生まれ、信頼や強いつながりが生まれる。

 「VTuberは、アニメ風のきれいなビジュアルでありながら、配信では人間的な側面も見られます。アニメキャラクターやアイドルにはない二面性によってVTuber自体に親近感が沸きやすく、強い熱量につながっているのではないでしょうか」(中森氏)

 VTuberとファンは配信中に密接なコミュニケーションを行う。さらにVTuberならではの二面性も魅力となっている。それが、これまで利用履歴のなかったユーザーがプラットフォームの枠を超えてau PAY マーケットに訪れる理由の一つだと中森氏は分析している。

KDDIグループとしての狙いも

 au PAY マーケットには、通信事業者グループ企業としての側面もある。

 「われわれは流通規模だけでなく、どれだけのお客さまを視聴に誘引できたか、どれだけ長く視聴いただけたかもKPIに置いています。月次で視聴者数を積み上げていくと、すでに数百万規模のお客さまが見てくださっていますが、ここで動画を視聴してもらうことはKDDIの通信料収入にもつながっていくため、それをKGIとしています。そのため、商品や価格に加えて、多くの方にご視聴いただき、より長く見ていただけるようコンテンツのエンタメ性を重視して番組制作しているというのもわれわれのサービスの特徴です」(中森氏)

 通信キャリアにひも付いたショッピングモールは他にもある。au PAY マーケットの独自性はなぜ生まれているのか。

 「大きな事業規模で行っているコマース事業では、インパクトを出すことは相当な規模のトラフィックでないと成功とみなされないと思います。われわれはチャレンジャーですから、ある程度割り切っていて、お客さまを連れてくることがゴールであると考え、エンタメ性を研ぎ澄ませています」(中森氏)

 もちろんコマース事業に限って言えば、視聴から購入に至らなければならない。定常的に番組を見て、モノを買うというサイクルに入ってもらうことが望ましいと中森氏は説明する。

 ライブコマースは、同じ演者を使っても商品が変われば別の番組になる。反対に、演者が変われば、商品が同じでも別物となる。ある演者がお薦めした商品を買った人がその商品を気に入ると、次にその演者がお薦めする別の商品を購入するというサイクルが回り始めている。

 「やがて訪れる6G時代を見据えれば、静止画を中心とした今のEコマースだけでは通用しなくなると思っています。動画がより中心になり、双方向性が重要視される中で、ライブコマースの基礎的な技術は必ず軸になると考えています」(中森氏)

 今後は、演者と視聴者がより深くコミュニケーションができるような機能を増やしていく方針だ。また、「ライブコマースといえばau PAY マーケットと言われるような事業規模に育てていきたい」と中森氏は語る。

執筆者紹介

鈴木朋子

すずき・ともこ ITライター。iPhoneの日本発売以来、SNSやアプリなどスマートフォンを主軸にしたサービスを追っており、書籍や雑誌、Webに多くの記事を執筆している。スマホネイティブと呼ばれる十代のIT文化にも詳しい。著書に『今すぐ使えるかんたん文庫 LINE&Facebook&Twitter基本&活用ワザ』(技術評論社)など。


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