先駆者パルコが語る、“生成AIで広告”制作の勘所 クリエイターに残る「重要な役割」とはパルコ×博報堂対談(1/2 ページ)

2023年と2024年にパルコでは生成AIを使った広告制作を実施。しかし、主導したパルコ 草刈洋氏は「人間のすごさを逆に実感する経験となった」と語る。それはなぜなのか。

» 2025年08月18日 06時00分 公開
[渡辺まりかITmedia]

 ファッションやエンタメなどのカルチャーを発信する「カルチャーブランド」として存在感を誇るパルコ。同社ではこれまで、クリエイターの感性を大切にしながらも、いち早く生成AIで広告を作るなど、テクノロジーの活用にも積極的に取り組んできた。

 生成AIが盛り上がりを見せている今、クリエイティブやブランディング活動が危機に面していると考える人もいる。クリエイターの仕事は、生成AIに取って代わられてしまうのだろうか。

 長年パルコで宣伝に携わってきた草刈洋氏(パルコ 宣伝部EXPERT)と、博報堂で多数のキャンペーンを手掛けてきた嶋浩一郎氏(博報堂 執行役員/エグゼクティブクリエイティブディレクター)が、生成AIが広告・クリエイティブに与える影響や、クリエイターの役割はどう変化していくかについて議論した。

この記事はセールスフォース・ジャパンが7月24日に開催したイベント「Agentforce Innovation Day Marketing & Commerce」内のセッション「令和マーケティングのジレンマ『宣伝は嫌われ者なのか』AIエージェント時代を生き残る、ブランド企業とは?」をもとに紹介する。

先駆者パルコが語る、“生成AIで広告”制作の勘所

嶋氏: 1つ目のトピックは「AI実装時代における宣伝の危機と対応」というものですが、草刈さんはどう思いますか。

草刈氏: AIを使えるということは、選択肢が増えるということなので、広告マーケティングやブランディングにとって新たなクリエイティブの扉を開くチャンスだと考えています。

嶋氏: AIを使えば、動画広告を早く作れる。例えば、1万人の顧客に対して1万のショート動画広告を作れる。そういったパーソナライズ化のためにAIのお世話になればいいのかなと、僕も思っています。

 そういえばパルコでは、生成AIを使った広告を作っていましたよね。

草刈氏: 2023年ですね。渋谷パルコが50周年を迎え、「伝統と革新」というテーマで広告を作ることが決まりました。この年は、AI元年とも呼ばれており、生成AIを「革新」として取り入れて、初めて生成AIだけでパルコの広告を作りました。

 パルコの広告にふさわしいクリエイティビティを担保できるかという不安は確かにありました。しかし、米国のAI・デジタルクリエイター「Ai-Editorial-Christian Guernelli」に出会い、AIを扱う能力の高さから、「これならイケる」と確信できました。

参考:パルコも“AIモデル”起用、ファッション広告に 「AIと分かった時の驚きを追求した」

実際に出来上がったもの 2023年のパルコ「HAPPY HOLIDAYS」キャンペーンの広告。当時のプレスリリースより引用

嶋氏: AIはいろいろなデザインソースを参照できるからか、時空を超えたデザイン――つまりクラシックなものとモダンなものをミックスしたデザインを作ってきますよね。ちょっと懐かしい雰囲気がありながら、新しさもあります。

草刈氏: ここにたどり着くまでに、1000枚以上の出力がなされています。例えば、女性の目線をちょっと動かす、手の高さを変えるといったプロンプトを打ち込むと、前の顔の方が良かったのに、別の顔に変わってしまう。それを辛抱強く正解に近づけられるよう、何度もプロンプトを打ち込んでいくという作業が必要になります。

 しかし、その選別のところで、人間の審美眼が必要になるんですよね。AIを使っても、結局のところそれを選別していく人間のクリエイターが重要なんだなということに気付きました。

嶋氏: 2024年の生成AIを使った広告では、どのような気付きがあったでしょうか。

草刈氏: 「AIで作る」ことを主眼に置いたムービーを2023年に作りました。2024年には、当たり前のようにツールとしてAIが使われるようになっていました。私たちのCMでも、です。

 2023年はAIで作った画像をズームアウトしていくだけのムービーでしたが、2024年のものは細野晴臣氏のモノクロ写真と田名網敬一氏の作品が絶妙なバランスでミックスされて動くものに仕上がりました。

2024年に55周年を記念して制作された細野晴臣氏×田名網敬一氏コラボのパルコのCM。モノクロ写真や作品を動かすのに生成AIが活用されている

嶋氏: AIを使って広告制作物を作ってみて、どういう感想を持たれましたか。

草刈氏: どの出力も完成度が非常に高く、ピラミッドの頂上を旅するような驚きを得られました。ずっとその高みを旅していく感覚です。

嶋氏: 企画コンテなどでは、ちょっとずつブラッシュアップされて、そして最終バージョンへと仕上がっていく、そういう過程がありますよね。

草刈氏: そうですね。今、この山頂にいる状態で「手直しして」というと、次の山頂に連れて行かれるという感覚でした。AIのおかげで、いろいろな方向性のクリエイティビティを試せるようになったと思います。

 また、頼んでおけば短時間で複数のアイデアを作ってくれる。何度ダメ出ししてもパワハラにならないのが良いところですね。

嶋氏: 夜を徹して作ってくれる上、ダメ出ししてもめげないのはありがたいですね(笑)

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