アクセンチュアの矢野一路氏による講演「デジタル化の未来と求められる営業・マーケティング変革」の概要を紹介する。
デジタル変革の波は企業のあらゆる部門に押し寄せている。
隣接する業務領域においては、これまでの部署間の関係や役割分担の再定義が必要になるケースもあるだろう。とりわけ変化が大きいと考えられるのが営業とマーケティングだ。
本稿では、2018年5月にトレジャーデータが開催したデジタルマーケティングのカンファレンス「TREASURE DATA “PLAZMA” TORANOMON」から、アクセンチュアの矢野一路氏(通信・メディア・ハイテク本部 シニア・マネジャー)による講演「デジタル化の未来と求められる営業・マーケティング変革」の概要を紹介する。
アクセンチュアでは毎年4月、世界中で「デジタル消費者調査」を実施している。世界19カ国2万1000人を対象とした2018年版では「スマートスピーカー」「動画」「AR/VR」「自動運転」の4つを注目キーワードとして挙げている(関連記事:「スマートスピーカーを持っていると自宅でのスマホ利用頻度が下がる──アクセンチュア調査」)。
今後、デジタルとリアルを融合させた顧客体験の設計は不可欠になる。矢野氏は、やや毛色の異なる「自動運転」を除いた3つのキーワードについて現状を紹介した上で、いずれにおいても「重要なのはテクノロジーそのものではない」と強調する。求められているのはハイパーパーソナライズされた高品質の価値提供であり、テクノロジーはそれを実現するための手段にすぎないというのだ。
「良いものを作れば売れる時代は終わった。これからの企業は、顧客体験の全体像を踏まえた上でマネタイズポイントを設計しなければならない」と矢野氏は語る。
アクセンチュアではB2Cのビジネスにおける新しい消費者行動モデルとして「ノンストップカスタマーモデル」を提唱する。これまでの消費者は、実際に店舗に出向いて品物を手に取り、店員のアドバイスに耳を傾けて、購入するかどうかを決めていた。しかし、今はどの店に行くのか、そこにどのような商材があるのか、必要な情報にいつでもどこからでもアクセスできる。また、買った後には自らもSNSなどで情報を共有する。体験と評価が次の消費者の意思決定に役立てられるという、企業がコントロールできない部分が広がっているのだ。
同じように、B2Bにおいても購買プロセスのデジタル化は進んでいる。『Harvard Business Review』によれば、B2Bの顧客の3分の2は営業担当者と会う前にWebで情報を収集し、購買意思を固めているといわれる。また、B2BはB2Cと異なり購買決定に関わる人が複数いるが、Googleの調査では、情報収集に当たる人の46%は若手社員(18〜34歳)だ。この割合は今後さらに上がる。彼らに情報が届くようにするためにも、デジタル世界でのプレゼンス獲得・向上は必須だ。
顧客の行動が変化する中、B2B企業のデジタルマーケティングへの意欲は高まっている。B2Bのサービス業、製造業、商社と、業種別に調査を行った結果では、平均しておよそ3割弱がデジタルマーケティングの取り組みに力を入れており、検討中のフェーズまで含めれば全体の7割がデジタルマーケティングに前向きだ。
しかし、多くの企業では思うような結果が出ていないのもまた事実だ。B2Bのサービス業の50%、商社の61.1%、製造業に至っては77.4%が「成果が見えていない」と回答している。
B2B企業でデジタルマーケティングの成果が出ていない理由として矢野氏は、購買に至るまでの複雑な意思決定プロセスと、進化し続けるマーケティングテクノロジーへの目利きの困難さを挙げる。B2Bマーケティングにおいては、システムやツールを一度導入してしまうと、すぐに変更することが難しいこともあり、自社にとって何が本当に必要なのか見極めが難しいのが現状なのだ。
アクセンチュアでは2018年5月に傘下のアイ・エム・ジェイなどと「B2Bデジタルマーケティングショーケース」を発表している(注)。MAやSFAなど部分的にツールの導入は進んでいるが、欠けているものがあったり、ツールごと、部門ごとに情報が閉じていてうまく連携が取れていなかったりという課題を、多くの企業が抱えている。こうした企業に対し、リード獲得から営業活動まで統合的なソリューションと、MarTech(マーケティングテクノロジー)の知見を踏まえた実践的なノウハウを提供することで、B2Bデジタルマーケティングの成果を実感してもらうのが狙いだ。
注:2018年7月にサービス提供を開始している。
B2B企業のマーケティング支援を数多く経験してきた立場から、この分野の課題は結局のところ「営業が求めるリードの条件をマーケティングが捉えられていないこと」に集約されると矢野氏はいう。
マーケティング部門も営業部門も「売り上げを上げる」という目標は共有している。ところが、お互いにどういう視点で何を必要としているのか、認識が一致していないケースが少なくないというのだ。
「共通の売り上げ目標に対して、必要な受注はどのくらいなのか。そして、受注を達成させるためには営業のパイプラインはどのくらい必要か。足りない部分があるならばそれをマーケティングがどう解決していくのか。まず受注からマーケティングまでのプロセスを逆引きで検討することでボトルネックが見えてくる」と、矢野氏は説明する。そして「営業に貢献するマーケティングを実現するために、マーケティング部門がやりたいこと、良いと思ってやっていたことをいったん捨てること」を提唱する。まずは営業が欲しいものありきで考え、それをマーケティングがどう埋めていくのかというように、一からマインドを変える必要があるというのだ。
足りないところを補うためにシステムやツールを1つずつ入れていくより、まずはマーケティングと営業の業務プロセスを洗い出す。デジタルマーケティングの視点で全てのプロセスを俯瞰することと、それができるMarTech人材が、今求められている。
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