2012年は「ビッグデータ」がさまざまなところで語られ、すっかり“バズワード”化した感があるが、「ビッグデータ」が企業の競争力強化に向けて重要なキーワードになっていることは自明である。
「ビッグデータ」について語る時、(1)「データを整備し、蓄積する」⇒(2)「データを加工し、高速処理する」⇒(3)「データを分析し、新たな価値を生む」という3つの段階(図1)に分けて語ることが多いと思われるが、我々広告会社の主要な業務領域はマーケティングサービスであるので、主に(3)「データを分析し、新たな価値を生む」段階に焦点を絞ってお話していきたい。
図1 ビッグデータ活用の3ステップ
本テーマでは、以下6つの構成で見ていくことにする。
- 広告会社から見る「ビッグデータ」の定義と、「ビッグデータ」に注目が集まっている背景
- 増大するデータをマーケティングに活用していく上での課題(現場業務に携わる者としての所感)
- 上記課題を解決していくための新しいアプローチ方法:「ビッグデータ”ドリブン“マーケティング」の概要
- 「ビッグデータ“ドリブン”マーケティング」実践に向けた2つの視点
- 「ビッグデータ“ドリブン”マーケティング」最新の活用事例
- 「ビッグデータ“ドリブン”マーケティング」の今後の展望
前編では1、2、3を、後編では4、5、6について述べる。
Webサイト上では毎日のように「ビッグデータ特集」が組まれていたり、さまざまな企業や団体が「ビッグデータ」をテーマにした展示会やセミナー等を開催しており、「ビッグデータ」に関する注目度がますます高まっているが、「ビッグデータ」とはかなり曖昧な概念であり、さまざまな解釈があって明確に定義づけられていないのが現状である。
ウィキペディアによると、「通常のデータベース管理ツールなどで取り扱うことが困難なほど巨大な大きさのデータの集まりのこと。通常は、構造化データおよび非構造化データが含まれ、その多様性とサイズのため、格納、検索、共有、分析、可視化などには困難さを伴う。」とある。
まずは、「ビッグデータ」の特徴について、今一度広告会社の立場から整理したい。
- 特徴(1)<Volume>:大容量である。数テラバイトからペタバイトクラスの大容量データである。
- 特徴(2)<Variety>:非定形化、非構造化データが増加し、多種多様である。エクセルでおなじみのテキストデータだけでなく、画像データ/音声データ/動画データ、Webサイトのアクセス履歴や検索履歴、ソーシャルメディアなどへの書き込み内容、センサーから得られる電力やガスの使用量など、さまざまな種類のデータが存在する。
- 特徴(3)<Velocity>:リアルタイム性が高く、次々とデータが生成される。特に、スマートフォンの急速な普及によって、アクセス履歴などがリアルタイムにデータとして生成されていくのは、おなじみのことだと思う。
上記3つの特徴に加えて、<Value>(価値)をもたらすものである、ということもビッグデータの特徴を考える上では重要である。「ビッグデータ」を単なるデータの集合ではなく、企業の競争力向上を実現するための「価値あるデータ」として捉え直していくこと、「ビッグデータ」から新たな価値をどう発見し、どのように効果的な解決策を提案していくのかが、次世代マーケティングにおける争点になってくる。
次に、「ビッグデータ」が注目されている背景を見ていくと、大きく以下の2点がある。
- スマートフォンに代表されるスマートデバイス、ソーシャルメディア、そしてクラウドコンピューティングが普及/拡大するなど、デジタル化によって情報量が爆発的に増加。それを企業が容易に手に入れることができるようになったこと。
- 取得した大量のデータを蓄積⇒処理⇒解析するためのテクノロジーが急速に進化。これによってこれまでは技術的にもコスト的にも分析が難しかったことが、安く、速くできるようになったこと。
上記によって、データをさまざまなビジネスや事業に生かそうという動きが、今の「ビッグデータ」ブームにつながってきていると思われる。
- エージェンシーに変革を迫る6つの環境変化
広告会社は変わらなければならない。では、いったいどのように変わるべきなのか? 大手広告会社 博報堂が「ビッグデータ」「マーケティングROI」「プラットフォーム化」など6つの軸で次世代の広告会社像を提示する。
- 第1回 エージェンシーのビッグデータ“ドリブン”マーケティング(前編)
「エージェンシーに変革を迫る6つの環境変化」の第1弾として、「ビッグデータ」をマーケティングに活用していく新たな取り組み「ビッグデータ“ドリブン”マーケティング」について、前編、後編の2回に分けてご紹介していく。
- 第1回 エージェンシーのビッグデータ“ドリブン”マーケティング(後編)
ビッグデータは「推測型マーケティング」から「実証型マーケティング」への進化を促す。ビッグデータを活用することで、今までのアプローチ手法では見えてこなかった新しい発見や価値創造が期待できる、ということだ。試行錯誤の段階ではあるが、「実証型マーケティング」が次世代マーケティングの大きな柱になるのではないだろうか。
- 第2回 戦略課題を確実に捉えるマーケティングROI(前編)
収益を伸ばすために、今やらなければならないマーケティングは何か――。対象事業をマーケティングROI視点で分析し、「マーケティング活動」「顧客行動(顧客構造)」「収益」のメカニズムを可視化することだ。
- 第2回 戦略課題を確実に捉えるマーケティングROI(後遍)
前編では、対象事業をマーケティングROIの視点で分析するための考え方を述べた。後遍ではマーケティング戦略のキードライバーを開発するプロセスを明確にする。
- 第3回 テクノロジーが広告会社とクライアントの関係性を変える
デジタルテクノロジーに始まったマーケティングの小さな変化が、「クライアントと広告会社」という受発注の関係を変化させた。いまや、われわれ広告会社とクライアント企業は、(ビジネス)ゴールを共有する「ビジネスパートナー」という関係性で、マーケティングを展開している。
- 第1回 CMOが日本の組織に馴染まない理由
CMOとは何者か? マーケティングドリブン型組織が持ち得る力とは? マーケティングを軸に組織再編を考える松風里栄子氏の新連載。第1回はマーケティング部門が見直される背景および企業の構造再編を阻む要因を整理する。
- 第2回 グローバル企業のマーケティング組織マネジメント
グローバル企業はどのようなマーケティングマネジメントを志向し、チャレンジし、実践しているのか。3人のグローバルCMOへのインタビューを通じて、その要点と課題を考察する。
- 第3回 CEOは「DNAの存続」を志向し、CMOは「適者生存」を追求する
CMOの役割は「環境変化に対し、的確な判断をすること」、つまり、会社をいかに進化させていくか、その答えを見つけ出すことです――。一休のCMO 汲田貴司氏との対談を通して、CMOの真のあり方を考える。
- 第1回 進化するアドテクノロジー――「枠から人へ」の変化
アドテクノロジーは誰のために、どんな目的で生まれてきたのか――。モーションビートのチーフプロデューサー 堺真幸氏によるアドテクノロジーの基礎解説。第1回はアドテクノロジーの技術的進化を概観する。
- 第1回 ビッグデータアナリティクスの全体像
情報技術とマーケティングの関係は今後ますます密接になっていく。では、ITの世界はいま、どうなっているのか? そして、今後どうなるのか? 伊藤忠テクノソリューションズの大元隆志氏が5つの技術トレンドと3つのパラダイムシフトを切り口に、マーケターにとっての「ITのいま」を読み解く。
- 第1回 アトリビューションマネジメントの最前線
アトリビューションマネジメントの意義とは「アクセス解析の延長」や「広告効果測定の延長」ではない。顧客そのものの理解を深めることにあるのだ。Fringe81の田中弦氏による連載コラム「田中弦のアドテクノロジーで吠える!」第1回。アトリビューションマネジメントの最前線ではいま、何が起こっているのか?
- 第3回 成功事例で考えるマーケティング領域のビッグデータ活用
ビッグデータがマーケティング分野に及ぼす影響を、先行事例をもとに解説。例えば、クーポンの償還率が10%から25%に改善されたり、顧客の行動データを分析する時間が11時間から11秒に短縮されたり。ビッグデータの分析によって、マーケティング分野にイノベーションをもたらすことが証明されている。では、そのような能力を持つ企業とは?
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