CMOの役割は「環境変化に対し、的確な判断をすること」、つまり、会社をいかに進化させていくか、その答えを見つけ出すことです――。一休のCMO 汲田貴司氏との対談を通して、CMOの真のあり方を考える。
前回「グローバル企業のマーケティング組織マネジメント」は、現在求められるマーケティングリーダーの役割、そして企業におけるマーケティング組織の改革の方向性について、グローバル企業のCMOの話を元に考察した。考察の1つとして、“ソーシャル時代のマーケティングは、「いかにビジネスのバリューチェーン全体に関わり、マネジメントするものとして機能できるか」に舵を切っている”と述べたが、企業成長のためにはマーケティングの役割や範囲がより広く、より統合的にならざるを得ない今、マーケティングリーダー(ここでは便宜上CMOと呼称する)の役割はよりCEOに近くなっているとも考えられる。
今回は、日本企業におけるCMOの取組み事例を、株式会社一休(以下、一休)を題材にしながら、リーダーシップという観点において、CEOとCMOの違いとそれぞれの役割を一休のCMO 汲田貴司氏と共に掘り下げていく。
まず、一休のマーケティングチャレンジとCMOの取組みについて簡単に紹介する。
一休は、1998年の創業以来、ガレージ企業から急成長を続けてきたが2007年の上場直後、競合企業の台頭もあり、事業の踊り場を迎えていた。そんな時、CMOとして外部から招かれた汲田氏は、さまざまな改革を執行しながら、一休をマーケティングドリブンの組織へ変革するためのチャレンジを続けてこられた。
一休は、宿泊予約事業をコアにしながらも、レストラン予約、ギフト・ショッピング、クーポン共同購入など複数の事業を展開している。ビジネス面で踊り場を向かえていた当時、従業員数は150人程度という規模でありながら、組織自体は事業ごとの縦割り構造だった。
汲田氏はまず、事業別に存在していた顧客分析手法を見直し、事業横断の同一指標を設定した。例えば、顧客データについては、(1)リピート(アクティブ)会員、(2)リターン(休眠)会員、(3)エントリー(新規)会員の3つに区分し、それぞれの変化を時系列でウォッチしていった。震災などの環境要因がどの会員区分にどう影響したのか、またマーケティング施策などの打ち手がどこにどう効いたのか――。これにより、成果や問題点の分析が可能になるだけでなく、各事業が同じ指標を見ることで、事業間の補完や連携がスムーズに行われるようになった。また、顧客に根差した同一指標を見ていくことで、一休社内ではマーケティングマインドが徐々に高まっていった。同時にCMOとして、これらの指標分析から導き出される事業シナリオを経営判断に取り入れた。まさに経営とマーケティングの融合強化と言えるだろう。
さらに同社は、事業成長の原動力として2010年度に新たな事業ビジョン「心に贅沢させよう」を掲げて事業の方向性を可視化したが、これを社員に理解/浸透させていくこともCMOの役割だった。毎週月曜に全社員が参加する朝礼が開催され、ここで汲田氏は「こころに贅沢させよう」という事業ビジョンが書かれたボードの前で、社内外の事業関連データを読み解きながら社員との対話を行ってきたのであった。
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