御社のマーケティング部門は何をマーケティングしているのだろうか? マーケティングを企業としてマネジメントするための処方箋を示す。
古き良きマーケティングの時代は終わった――。業務用ソフトウエア企業SAPのCMO Jonathan Becker氏は強調する。従来からマーケティングを企業として重視し、CMOを中心にその機能を洗練させてきた企業でも、デジタル時代の現在において、マーケティングの大変革に直面しているという危機感を露わにする。
IBMが1700人以上のCMOに対して行った調査によると、次世代マーケティングに対する準備不足を認識している要因として、71%のCMOが「データ量の飛躍的増加」、68%が「ソーシャルメディア」、65%が「チャネルと伝達手段の増加」と回答している。
しかしながら、日本企業にとっては、デジタル時代という市場環境要因の前に、そもそもマーケティングそのものを再考しなければ成長への道筋が見えづらい、そんな時代になっていると思われる。成熟/縮小均衡市場に対する企業戦略だけでなく、海外新興市場における事業ももちろん、作ったものを売る/開発したサービスを伝えるマーケティングでは立ち行かなくなるからである。これに輪をかけて、企業と顧客との接点が拡散/拡大し、そして常時接続していく、“From 360 to 365”の時代に我々はいる。マーケティングをバリューチェーン全体でマネジメントできるよう見直し、企業成長のために機能させていく仕組み、すなわちCMO機能を構築することが余儀なくされている。
では現在、マーケティング部門は何をマーケティングしているのだろうか? マーケティングを企業としてマネジメントしたいのにできない、そんな企業の課題として、段階別に以下の3点がよく挙げられる。
プラニング機能を広告会社など外部企業に丸投げし、マーケティング作業部門になっている。具体的には予算実績管理と、生産、開発、営業、広報など社内各部門の調整役にとどまっている。
マーケティング部門がプラニング機能を充分装備してもマーケティングをビジネス構造全体で機能させようとするときに直面する縦割り組織の壁。「第1回 CMOが日本の組織に馴染まない理由」でも指摘しているが、各事業部、研究開発、プロダクト/サービス企画、営業、広報、調査、といった組織がそれぞれの既得業務範囲や決定権を持ち、さらにそこに各事業本部や国/地域の権限が存在する。全社最適視点による統合マーケティングをなかなか仕掛けられない。
マーケティング部門が持つ権限が不明確である。最も顕著にみられる例が「社長の口出し」。きっとみなさんもご経験されたことがあるのではないか。分析や議論を重ねて導き出したマーケティング施策が、「うーん違う」と感覚で却下される。あるいは、「ここの店頭はもう少しこうならないか」と細かすぎる言及、「このタレントを使いたい」などマーケティング部の方向性を吹き飛ばす発言。もちろん経験値から導き出される示唆は傾聴すべきであるが、一部の企業のように、社長=CMOである場合を除けばやはりCEOとCMOはうまく役割分担しながら企業成長をリードすべきと考える。また上述の課題は、マーケティング組織の構造や連携の仕組み、組織内の機能役割を設計することでブレークスルーしていくことが可能となる。市場環境変化を考えると、今まさに組織改革に取り組むべきである。
第1回 CMOが日本の組織に馴染まない理由
第2回 グローバル企業のマーケティング組織マネジメント
第3回 CEOは「DNAの存続」を志向し、CMOは「適者生存」を追求する
第4回 マーケティングと経営の一体化へ――「ポッカサッポロフード&ビバレッジ」の組織変革の取り組み
第5回 CMO機能を実践しよう〜組織改革のすすめ
第6回 “The CMO” Jim Stengel氏に聞くマーケティング視点の組織改革
第1回 生活者の“買いたい”気分を創り上げるマーケティングコミュニケーション
第2回 コミュニケーション戦略マップ――BSC各視点の因果関係を整理
第1回 衰退する企業と躍進する企業、違いは「事業定義の仕方」にある
第2回 「多機能/高品質なのに低収益」――間違いだらけの顧客中心主義から抜け出す
第1回 統計データから紐解くマーケティングの「デジタルシフト」Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.