本連載では、CMO機能が企業の戦略リーダーとなるというメッセージをさまざまな角度から発信してきた。連載最終回である今回は、“The CMO”としてマーケティングに携わる方々ならきっとご存知であろうJim Stengel氏に、戦略リーダーとしてのマーケティングのあり方、企業成長の要諦として氏が掲げる“ideal”(理念)の本質を尋ねた。
松風里栄子(以下、松風) Jimさんはマーケティングのパラダイムチェンジをどのように捉えていらっしゃいますか?
Jim Stengel氏(以下、Jim) 確かにマーケティングの重要性はここ数年で世界中に浸透しました。10年前は(マーケティングよりも)製品の機能が重要視されていたと思います。現在では、マーケティングの名のもとに、組織内に散在するさまざまな業務の統合が図られています。PR、マーケティング、メディア、デザイン、全てを一体化してマネージメントするようになっています。グローバル企業なら特に、「伝えるべきメッセージ」「企業としての振る舞い」など全てを統一し、世界中どこでもブランドに関する体験が同じものであるように一貫性を持たせなければならなくなっています。例えば、AppleのPCを購入する場合、東京でも、ロサンゼルスでも、その購入体験は同じものでなければならない。ルイ・ヴィトン然り、ユニクロも同様です。
特に最近は、企業がソーシャルメディアを活用するようになりました。PR、マーケティング、人事、営業など、各部門がそれぞれ自分のところで行いたいと争いになるケースをよく聞きますが、そうではなく、1人のリーダーのもとに一体化するべきだと思います。業務の一体化は現代の企業にとって、きわめて大きな課題なのです。
松風 マーケティングをビジネス全体の視点で統合し、効果的に活用するためには、CMO機能を取り入れるべきだと私は考えています。しかしながら、組織として多くの変革が必要ですから、既得権益の問題、一時的な効率の低下など、実際には非常に難しい面があります。Jimさんのご経験から、ブレークスルーのポイントを教えてください。
Jim お勧めする1つ目のポイントは「ベンチマーキング」です。私がP&Gで変革を実行した時にもその手法を採用しました。具体的には、外部のコンサルタントに相談し、同時に、自分でも他の企業のベストプラクティスを研究しました。日本の大手企業は優れたマーケティングを行っているところが多いですし、リーダーシップモデルとしても学ぶべきことが多々あります。日本企業、特にトヨタを始めとした製造業はベンチマーキングの対象として世界的に有名で、マーケティングについても同様です。ベンチマーキングを行うことで組織に対する別のアプローチを考え、実行するきっかけになると思います。
ベンチマーキングというのは客観的、中立的であるべきです。だからこそ、外部のコンサルタントがとても役に立ちます。企業内部の政治的な問題に対しても中立の立場を保てます。内部の人間だけで行うとバイアスがかかってしまうため、P&G時代にも外部にコンサルティングを委託していました。
次に大切なことは、「オープンマインドであること」です。変化を厭(いと)わず、いろいろなことをまずは試してみることが大事です。P&Gではそれを「パイロットテスト」と呼んでいました。つまり、まずはいくつかの新しい組織モデルを試してみることです。全てを一度に変えることは高いリスクを伴いますが、限られた範囲で試験的に行うのであればリスクは小さい。うまくいかなければ他の手段を考えればいい。そうやって成功したモデルを、本格的に全社に採用する。常にオープンマインドで他の企業の組織モデルを「パイロットテストしてみること」が、私の2つ目のお勧めです。
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