ターゲット顧客が必要としていなければ、あえてその要素は切り捨てること。そうしなければ、どの会社も同じような商品を作り、多機能/高品質、かつ低収益な商品を数多く生み出し続けることになる。
「顧客中心主義が大切だ」。このように言うと、日本では「何をいまさら、当たり前のことを」と思われることが多い。確かに多くの日本の企業は徹底して顧客第一主義だ。お客様に言われたことにはノーと言わず最優先で対応しようと考える。ある国民的演歌歌手も言っていた。「お客様は神様です」
「顧客を大切に考えることは日本人の遺伝子である」とも言えるかもしれない。これだけ顧客第一主義を徹底している国は、世界広しと言えども日本くらいであろう。
しかし、ちょっと待って欲しい。ともすると「顧客の言うことならば、何でも対応しよう」と考えてしまいがちな過剰な顧客第一主義が、現代の日本の停滞を生み出しているとしたらどうだろう?
以下は、2011年8月12日の日本経済新聞に掲載されたコマツ・坂根正弘会長のインタビュー記事からの抜粋だ。
「縮む国内市場にプレーヤーがいっぱいいて消耗戦をやっている。世界の製造業に欠かせない部品・素材企業が国内に多いことが震災で分かった。ただ過当競争だから、顧客に言われれば何でも引き受ける。私が社長なら断らせる。こうした体質がいろんな業界で低収益を生んでいる」
顧客を大切に考える日本人の勤勉さは、第二次世界大戦後の高度成長期を通じて、製造業を中心に世界最高の品質を生み出し、無類の強さを発揮した。しかし同時に国内で過当競争を生みだし、「顧客が言うことは何でも引き受ける」という姿勢に陥る面もあった。
そして、市場が成熟していく中で、多くの業界が顧客の要望を何でも引き受けるようになった。どの会社も似たような商品を作るようになると、同業他社との差別化ポイントが失われて価格競争に陥る。その後の失われた20年を通じて、一生懸命働いているのに「多機能/高品質、かつ低収益」という矛盾を生み出すことになった。
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