インターネット創成期に、日本のインターネット広告の仕組みを作り上げた功労者の1人、デジタルインテリジェンス 代表の横山隆治氏の最新著書が「DSP/RTBオーディエンスターゲティング入門」である。横山氏のインタビュー連載第3回。デジタルマーケティングを考える上で、広告主が変わらなくてはならない点とは。
1つは、運用するための人材ですね。マス広告もネット広告も基本的には同じ部署でバイイングを行っている大手クライアントが多く、そのためネット系の担当者の採用を一生懸命しています。ただ、マス広告の方々は、やはりネットに関する知見がないので、採用するにも判断ができない。そこで、一定のスキルや知見を持つために、勉強している担当者は多いです。今までマス広告をメインに行ってきた企業も、今ではデジタルマーケティングをやらなくてはいけないという認識はとても高いのです。特にテレビで100億円単位の予算を使っているクライアントは、効果についてはさまざまな角度で検証したいようです。ものすごい金額なので、削減効果も大きいですし。ただ、効果を実証するのはものすごく勇気がいることで、「売り上げが落ちたらどうするんだ」というプレッシャーが常にあるようです。担当者はテレビの効果をもっと増幅させられないか、もっと検証できないかを常に考えていて、テレビをネットでどのように補足するのかということは重要なポイントです。
例えばテレビというプッシュメディアと、Webのプルメディアを紐付けるとこんなストーリーが考えられます。DSPを使うと分かりますが、入札リクエストの掲載面に誰かがアクセスした瞬間「こういうクッキーが来たので、この掲載面に入札しませんか?」というリクエストが掛かります。DSPには、ユーザーが広告掲載面に来る直前に検索結果画面を見ていたとすると、検索キーワードも一緒に紐づいてリクエストが掛かるものがあります。「この人は直前で、○○と検索した人ですけど、この枠を買いますか?」というリクエストが掛かるので、テレビとの連動、例えばCMキャラクターの名前とか出演女優の名前を検索している人は、恐らくCMを見たであろうと予測できるので、その「人」をターゲットにディスプレイ広告で二の矢を放ってみる。このように、テレビの効果をもっと増幅させるためのネット広告を打つという仕掛けが、可能になるのです。
もう1つの課題は、デジタルを実行させるための経営判断、あるいは経営判断をさせるための社内ブレインの不足が挙げられます。日本の場合、基盤系の守りの部分でのIT投資は十分やっていますが、攻めのマーケティング部分へのIT投資は、今まで行われていないのです。マーケティングにITの要素をしっかり入れて、攻めの部分にテクノロジー投資をしていくという経営判断があり、「現場で判断してやりなさい」と社長からのミッションが下りて、現場からのボトムアップでもデジタルマーケティングをやらなくてはいけないという気運が高まっていく。このような流れがあって、やっと(デジタルマーケティングが)実現できるところではあるのですけど。
今までは、宣伝費やマーケティング費が何十億円かあり、とりあえず広告代理店と称している所にアウトソースすれば大体似たようなものが出てきて、同じぐらいのコストを使えば、同じぐらいのパフォーマンスを買えたと思うのですが、今やなかなかそこまでのコストが出せない時代になってしまったと思います。(そのような時代背景もあり)企業の中でデジタルマーケティングを機能させる必要があります。いくらお金を持っていても、自社内でデジタルマーケティングを機能させる会社とそうでない会社の差が、著しくついてしまう時代になったと思います。デジタルへの対応力の差がつき出してから、どの企業も慌てふためくと思うので、早くやったほうがいいな、と思います。
デジタルへの対応で成果を上げる企業は、この1年でかなり出てくるでしょう。その時点で、(デジタルマーケティングを)やっていない企業との差は大きな開きが出ますし、「先んずれば人を制す」で、新たなノウハウを次のステージに持っていけるので、出遅れると大変だと思います。想像していただきたいのですが、DSPを使うことにより今まで広告に10億円使っていた企業が1億円ぐらいコスト削減できるのであれば、追加で発生するDSP配信料の1000万円は安いものです。しかし最初の第一歩、まずは検証として1000万円を先行投資しないと1億円削減できるかどうか分からない状況では、「えいや!」とやってみるしかないのです。そのような決断や判断ができるかというと今の日本企業の経営体制で実行ボタンを押すのは、簡単ではないですよね。
※この記事はExchangeWire Japanの「Interview:『DSP/RTBオーディエンスターゲティング入門』著者インタビュー」の原稿を一部修正して転載しています。
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