ヤフー友澤大輔氏インタビュー、「Yahoo! JAPANが変わることで、日本のデジタル広告市場は進化できる」(前篇)ヤフーがネット広告について考えていること

第三者配信広告の本格スタートなど、大きく変化しつつあるヤフーのネット広告。今後の展望をYahoo! JAPANに新設された「マーケティングイノベーション室」の室長、友澤大輔氏に聞いた。

» 2012年12月26日 08時02分 公開
[ExchangeWire Japan]
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 Yahoo! JAPANは7月、マーケティングソリューションカンパニー内に、「マーケティングイノベーション室」を設置した。室長に就任したのは、ニフティ、リクルート、楽天といった企業において、一貫してデジタルマーケティング分野にかかわってきた友澤大輔氏だ。「日本のデジタルマーケティングを進化させるためには、Yahoo! JAPANがリスクをとって新しいことをやらなければいけないと感じていた」と語る友澤氏が、日本で圧倒的なユーザーベースを誇るYahoo! JAPANで行う新たなチャレンジとは何か。

自らリスクをとってデジタル広告の可能性を広げていきたい

ExchangeWire Japan 大山忍(以下大山) まず「マーケティングイノベーション室」が、どういった組織なのかについて聞かせて下さい。

ヤフー マーケティングイノベーション室 室長 友澤大輔氏

ヤフー友澤大輔氏(以下友澤) Yahoo! JAPANは、企業として「媒体」を持ち、「広告主」でもあり、さらに「営業部隊」を持つという独特なスタンスにあります。その中で、広告主としては、主に自社の媒体を活用してリスクをとりながら、チャレンジングなことをやり、そこで得られた知識やノウハウを、ショーケースを作って商品化し、営業が売るという体制を、Yahoo! JAPANの中で作りたかったのです。Yahoo! JAPANには、媒体社としての顔もあり、マーケティングソリューションの提供プロバイダーとしての顔もありますが、ただ商品を作って売っているだけではお客様の気持ちが分かりません。それを自ら使いこなし、結果として成功しても、失敗しても、それをケーススタディとして蓄積し、それを元にお客様に情報やノウハウを提供していきたいと考えています。

大山 こうした組織を作るにあたっては、どういった市場における課題や問題意識があったのでしょうか。

友澤 今の日本の広告市場においては「4マス(新聞/雑誌/テレビ/ラジオ)」と「デジタル」が明確に分かれて認知されています。この中で、デジタルのシェアは、現状のままで続けていっても、今後大きく伸びることはないのではないかという危惧がありました。

 今後さらに、この市場を広げ、進化させていくためには、大きな影響力を持っているYahoo! JAPAN自身がリスクをとって新しいことをやらなければいけないという思いが個人的にもあり、こうした思いは現社長の宮坂(学)、副社長の川邊(健太郎)も同じでした。

 市場において、デジタルメディアは新しい試みを多く取り入れている一方で、デジタル広告は昔ながらのディスプレイ広告やリスティング広告といったものが中心という状況があります。

 その中で、Yahoo! JAPAN自らが広告主となって、新しい技術や方法論を徹底的に使ってみて、成功と失敗を体験することで、初めてお客様に対してイノベーションを提供できるのではないか。むしろそうしなければ、市場は大きくなっていかないのではないか。そういった思いで、今回、マーケティングイノベーション室を損益が付く部分と別に設置したという経緯があります。

 具体的な陣容については、プロジェクト型で組織していこうとしています。以前、リクルートでは「インターネット・マーケティング・オフィス」という横断型の組織があって、各事業に対してコンサルティングを行っていたのですが、それに近い動き方をイメージしています。

重要性も難易度も高い「ブランディング」への挑戦

大山 今後、具体的に「こういうことをやっていきたい」というビジョンがあれば聞かせて下さい。

友澤 デジタル広告には「ダイレクトレスポンス広告」と「ブランディング広告」の大きな2つの流れがあります。「ダイレクトレスポンス」については、ショッピングやオークションといったコンシューマー系の市場をどう拡大していくのか考える際に、現在のアドテクノロジー、リッチアドなどを、今以上にどう活用できるかといった点に注目しています。

 (Yahoo! JAPANが2012年8月に提携した)仏Criteoが持っているような、クリエイティブの中味をお客さまに応じて臨機応変に変化させることでコンバージョンレートを上げていくような仕掛けなど、リッチアドが持っている潜在的な可能性は非常に高いと感じています。すでにお客様にも使っていただいていますが、我々自身も、その仕組みを独自に進化させながら、新たな活用方法を模索していく必要があると思っています。

 一方の「ブランディング」については、海外では、リッチアドや動画といった形で、小さなレクタングルの枠を飛び越えて、さまざまな方法論にチャレンジしています。この分野についても、日本の広告主にチャレンジを促すだけでなく、Yahoo! JAPAN自らがリッチなものを率先してやっていくことが重要だと考えています。先鋭的なことをやろうとすると、ユーザーから批判が出るリスクももちろんあるのですが、そこはYahoo! JAPANがリスクをとって実践し、実際の反応を確かめていきたいですね。

大山 「ダイレクトレスポンス」と「ブランディング」のそれぞれへの取り組みについて、重要性はどちらが高いと見ていますか。

友澤 重要性としては「ブランディング」のほうだと考えています。個人的には、デジタルマーケティングにおけるブランディングの分野は、まだまだ「白地」だと感じています。特にナショナルクライアントにおいて、ブランディングに投入する予算は、海外においてはデジタルが約20%の比率を占めていますが、日本では数パーセントに留まっている状況です。一方でダイレクトレスポンスは、2ケタ台を占めるという状況になっています。  

 この状況を見ても、まだ我々は、デジタルによるブランディングを十分に行えていないクライアントに対して、ソリューションを提供できていないわけです。ただ、ブランディングについては、米国でも、その「正攻法」は見つかっていない状況です。「重要度は高いが、難易度も高い」分野なので、しっかりと長期的に取り組んでいきたいと思っています。

 一方の「ダイレクトレスポンス」は、非常に分かりやすく、やりやすい分野ではあります。しかし、その反面、メディアがこれに傾倒しすぎると、メディア自体が「送客装置」として認知されてしまうという危険性もあります。

大山 メディアが持つコンテンツの価値との相乗効果を図る意味でも、ブランディングの重要性は増しているということですね。

友澤 広告がコンテンツ化していく流れはグローバルでも起こっている現象なので、それを「ブランディング」というお客様の目的にどうフィードバックしていくのかは、すごく大きなチャレンジだと思っています。もちろん、先ほども述べたように戦略的な重要性が高いと同時に、難易度も高いのですが。

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