「ディスプレイ広告、コンテンツもテクノロジーも動画に注目」、DAC徳久氏インタビューディスプレイ広告2013

ExchangeWire Japanがデジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(DAC)取締役CTOの徳久昭彦氏にインタビューした記事を紹介します。2013年、徳久氏が考える広告業界のトピックスは「データのオーナーシップ」「人材活用」「動画広告」です。

» 2013年02月27日 11時00分 公開
[ExchangeWire Japan]
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データ中心の広告に大きくシフトした2012年

ExchangeWire Japan 編集長 大山忍(インタビュアー) 2012年の日本のディスプレイ広告市場は一言で言うと、どんな年でしたか?

デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(DAC)取締役CTOの徳久昭彦氏(徳久氏) PCに関してはいわゆる純広告からデータ中心の広告へ急激にシフトした年だったように思います。スマートフォンに関しては、市場全体が思いのほか苦戦した印象です。スマートフォンのディスプレイ広告市場は伸びてはいるのですが、フィーチャーフォンの落ち込みをカバーできてないまま年末まで来てしまった感じでしょうか。モバイルディスプレイという領域でいうと日本市場は若干規模が縮小してしまった気がします。

 アメリカはもともとモバイルの広告市場がなかったので、伸びる一方に見えますが、日本はフィーチャーフォンの広告市場がそれなりにあり、それをカバーし切れませんでした。あっという間にアメリカに対し、モバイル市場規模を抜かれてしまったような印象を与えていると思います。

DAC 取締役CTO 徳久昭彦氏

インタビュアー  PCのディスプレイ広告市場が急激に伸びたと思われる要因はなんでしょうか?

徳久氏 ディスプレイの純広告は伸び悩んでいますが、DSPやRTBなどデータを使った広告では、感覚値でいうと倍以上は伸びたのではないかと思います。2011年までの数年はリスティング広告が伸び続けていき、ディスプレイ広告が効果の面で対抗しきれないという感じだったのが、2012年はディスプレイ広告もデータを使うことで「パフォーマンス広告」(目標保証広告)として使えるということに広告主、広告代理店、バイサイドの人たちそれぞれが気付いたのだと思います。ただ、ディスプレイ市場全体という意味で言うと、純広告としてのいわゆるCPM課金の部分は減り、パフォーマンス広告が増えただけなので、市場全体としてはあまり増えていない感じです。

著しい飛躍がみられたリターゲティング広告

インタビュアー 2012年にディスプレイ広告市場で新規に伸びた業種はありますか?

徳久氏 データをうまく使ったという意味で言うと、やはりEC系の広告主を中心としたクリテオは急激に伸びましたね。データを持っている広告主にとって、リターゲティングはとても有効であるということが改めて認識されたという感じです。データを広告主がうまく活用できればディスプレイ広告は非常に効果的で、時にはリスティングを上回るような効果があるということが分かってきました。ただ、全ての広告主がデータを上手く収集し、ハンドリングできているかというとそうではないので、これから課題になると考えています。

データのオーナーシップの明確化が成功の鍵

インタビュアー 2013年のディスプレイ広告市場で伸びる分野、課題の分野はありますか?

徳久氏 私はデータがとても大事だと思っています。アメリカでアンケート調査が出ていますが、広告主の社内でデータのオーナーが誰なのか分からないという状況が課題だと思います。

 ビッグデータのソリューションがバンバン出て、データを使うと有効だというのは分かっているのだけれども、それを誰がやってくれるのか? に対する回答がまだ今は不明確です。自社サイトを管理しているようなIT部門なのか、セールスマーケティングの部門なのか、それともCRMのような顧客管理をやっている部門なのか、社内のデータオーナーが誰なのかが伝統的な大手企業の中ではまだ分からない状況です。

 現在すでにデータベース志向で商売をしている企業は、データを扱える人材がいるようです。一方、オフラインのデータを扱ってきた企業では、新しくオンラインのデータを社内で責任を持って扱い、最新の手法を試しながらデータ活用を推進する人が必要です。しかし、そのような人材は確保するのが難しいのではないでしょうか。部門をまたがってデータを管理していくのはアメリカでもやはり難しいようなので、日本もその状態が続くだろうと思っています。

データのインテグレーションと活用人材

インタビュアー 日本のディスプレイ広告市場が活性化するために今後必要なもの、あるいは、現在成長の足かせとなっている要因はありますか?

徳久氏 ソーシャルメディアマーケティングを実施すると低コストで認知が広がりやすいということに気付いた人は多いと思います。しかし、ユーザーに「いいね!」ボタン押してもらって認知させた後はどうするの? と、次に何をしたらいいのか分からないのが、現状です。それをディスプレイ広告、SEM、メール、テレビCMなどとつなげるコミュニケーションの設計ができる、あるいはテクノロジーの開発ができればディスプレイ広告の価値はちゃんと出てくるのですが、現状は組織体制がバラバラで縦割りになってしまっている。そうなると「もうソーシャルメディアだけでいいじゃないか、よく分からないし」となってしまい、結果ディスプレイ広告の価値を示せない状況に陥っている節があると思います。

 これではブランディング効果に関してもよく分からない。でも実際、テレビをリアルタイムで見ない人が増えているじゃないですか。そういう人達に対してどうやってリーチするのか、ブランドをちゃんと知ってもらうのかというと、ディスプレイ広告をやらなくてはいけないのだが結局よく分からない、というのがブランド担当者の今の状況かと思います。

 これらのギャップを埋めるために、ソーシャルメディアのデータをオウンドメディアのデータと結び付けられる、すなわちインテグレーションできる「テクノロジー」と、データをつなげて考えられて、うまく使いこなせる「人材」が今年は必要だと思います。人材に関して言えば、広告代理店だけがその人材をそろえれば良いわけではなく、予算や社内調整という視点では広告主の社内にも、専門家という意味では独立系のコンサルティング会社にもそれらの人材が現れるのを期待したいですね。

動画によるコンテンツのリッチ化が媒体価値を高める

インタビュアー 2013年のディスプレイ広告業界で注目しているものは?

徳久氏 私が一番注目しているのは動画ですね。コンテンツにしてもテクノロジーにしても手法にしても、やっぱり動画です。先ほどのスマートフォンの話につながっているのですが、スマートフォンが媒体価値を持つためにはやっぱり動画のコンテンツをもっと使わないとだめですね。PCに比べてスマートフォンで読めるテキスト量には限界があります。せっかく通信環境が整ってきていて、スマートフォンでも動画を見られるのに、動画専門サイト以外では動画のコンテンツが全然ない。日本は特にそうです。アメリカではパブリッシャーは滞在時間単価を上げやすいということで、よく動画を使っています。

 ウォールストリートジャーナルやニューヨークタイムズは、動画のコンテンツをたくさん増やしています。それによって、ページビューあたりの滞在時間が増えると当然単価を上げやすいし、エンゲージメントを上げられる媒体になる。アメリカはそうやってコンテンツをどんどんリッチ化している。

 リッチなコンテンツにならないとリッチな広告はできないじゃないですか。テキストばかりのスマートフォンサイトでは、ぱっとしないバナーを出すしかない。だからやはりスマートフォンのコンテンツをリッチ化させることがすごく重要。それが結果的にディスプレイ広告の価値を上げると思うのです。

 アメリカもPCに関してはどんどんリッチ化していって一生懸命単価を上げようと頑張っていますけど、PCコンテンツのリッチ化すらまだ日本はできていないので、PCとスマートフォン、タブレットも含めて動画を活用し、コンテンツがリッチ化されることを期待しています。

インタビュアー 2013年のDACの注力ポイントは?

徳久氏 さらにデータを活用できるようなプラットフォームや、しっかりしたアトリビューションの分析サービスを提供したいなと思っています。クリエイティブ制作と広告の距離をもっと縮めて一体化させたものを作っていく、特にクリエイティブのムーブメントを作るのが大事だと思っています。

 私はそもそもバナーとリスティングだけのアトリビューションだと効果がよく分からないと思っています。その間には本来、エンゲージメントを高めているコンテンツがたくさんあるはずで、そこをノーカウントでリスティングとバナー広告で効果を測定するという話はおかしいのではないかなと。

インタビュアー 最後にマーケターの皆さんにメッセージをお願いします。

徳久氏 新聞雑誌の広告などと違ってデジタル広告はある意味すぐ止めることができ、しかもデータがどんどん取得できるので、いろいろな広告を試していただきたいと思っています。弊社のツールだけ使ってくださいというのではなくて、テクノロジーというものは、やはりクライアントや商品/サービスなどによってフィットするかどうか、それぞれに特徴がありますからさまざまなツールを使って効果を見ていただきたい。

 テックプロバイダーの立場で言うと、私たちはどんどんテクノロジーを磨いていって進化させているので、3カ月前にだめだったツールが今は良くなっていることもあります。このテクノロジーは使えないなどと早計に考えず、どんどん問題点をフィードバックいただいて一緒に進化させたいです。当然、それによって互いにリターンがあると思っています。

※本マップは、米LUMA PartnersのLUMAscapeのカテゴリをベースに、日本国内でのサービス提供を確認できたカテゴリのみを掲載しています。


※この記事はExchangeWire Japanの日本版、広告テクノロジー業界マップ2013(ディスプレイ広告)&2013年業界予測:DAC徳久氏インタビューの原稿を一部修正して転載しています。


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