DACとオムニバスは相次いで動画RTB大手チューブモーグルとの提携を発表した。現在、日本において動画RTB市場は未形成である。日本に動画広告が根付く条件とは何か。動画広告先進国であるアメリカと日本の違いや、国内の動画/動画RTB広告をとりまく環境などをまとめた。
デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(DAC)とオムニバスは2月6日、TubeMogul子会社であるチューブモーグルと資本業務提携を行うと発表した。国内のRTB広告市場の盛り上がりが提携決定の背景にあるという。TubeMogulは2012年10月30日にトランスコスモスと動画広告DSPの販売代理店契約を締結しているが、上記2社とは子会社を通じて資本業務提携を結んでおり、同社の日本における動画RTB市場へのコミットがうかがえる。
アドテクノロジーで日本の先を行く米国の動画広告市場は現在、非常に有望である。DACの発表によると、米国の広告団体IABの2012年上半期実績レポートでは、上半期の売り上げが約842億円(1ドル80円換算)、前年上半期比18.1%増と、高い成長性を示す。動画広告市場のうち、RTB方式により自動取引される割合は徐々に上昇しており、2013年には動画広告売り上げの20%以上をRTB取引(以下、動画RTB)が占めるという観測結果もある。
しかし現在、動画RTB広告市場は日本国内では未形成であり、動画広告市場自体、市場規模のデータ自体が十分に公開されていない。日米でここまでの差があるのはなぜか。海外の広告事情にくわしいEXCHANGE WIRE JAPANの大山忍氏に聞いたところ、アメリカで動画広告市場が盛り上がっている背景には「著作権の違い」がトピックの1つとしてあるという。日本の場合、一度放送したテレビドラマなどの番組をWeb上で公式に配信することは難しい。これは、コンテンツの著作権を持っているのがテレビ局だけでなく、芸能事務所などに分散しているためだ。
一方、米国では著作権を管理しやすいこともあり、テレビ番組のインターネット配信が盛んである。映画やドラマなどを「CM込み」で無料配信するメディアが数多く存在している。また、日本でいえばニコニコ動画のような一般ユーザーが作成した動画を共有するメディアの数も多く、インターネットで動画を見る文化が定着しているという。「日本に比べ、動画を提供するメディアや共有プラットフォームの数が多く、ユーザーの動画視聴が分散化しており、(プラットフォームを超えて)オンライン動画の流通を促進する環境が発達しています」(大山氏)。現在、動画広告のリーチの高さと、ユーザー属性情報の精度の高さ、数値化されたレポートによる費用対効果の分かりやすさなど、ネット広告の利点が企業に受け入れられている。
動画配信プラットフォームを数多く持つわけではない日本市場でも、動画広告との親和性が低いわけではない。ユーザー投稿型の動画コミュニティサイトであるニコニコ動画を運営するドワンゴは2013年2月7日、決算短信において2012年12月末のニコニコ動画の登録会員数は3078万人、有料会員は181万人となったという数値を報告した。日本でもネットで動画を見る文化が定着しつつあることがうかがえる。また、日本はブロードバンド普及率の高さ(世界2位/アカマイテクノロジーズ調査)、スマートフォンおよびLTEの普及が始まっているなど、モバイルでも動画を見る環境が整いはじめており、動画広告市場が伸長する土壌がありそうだ。
ただ、著作権以外にも問題はある。媒体社やマーケティング担当者のデジタルマーケティングスキルだ。動画広告や動画RTBといった新しい技術を用いた広告を運用するにはアドテクノロジーの知見が必須となる。テレビCMや新聞などのように「コンテンツを作成後、掲載/配信し、売り上げが伸びたかどうかチェックする」というだけではない。
動画広告、動画RTBを運用するには、「ターゲットの人物像を細かく想定/設定する」「広告運用時にどのようなデータが取れるかを理解する」「取得したデータにどのような意味があるか知見を導き出す」「知見にそって改善を続ける」など広告配信後に改善を続けるスキルが必要である。また、広告代理店側の立場を考えてもテレビCMなどと比べて取引単価がかなり低く、費用対効果が「見えやすい」動画広告、動画RTBを推進することは簡単ではなさそうだ。
動画広告を取り巻く環境は順風満帆とは言えないが、DAC代表の矢嶋弘毅氏は今回のリリースにおいて、「媒体サイドの動画RTB在庫の充実を図っていく」とコメントしている。オムニバスでは業務提携の内容から主に広告主サイドにおける動画広告RTBの導入を推進していくことがうかがえる。大手のプレイヤーが参入し始めたことで状況が変わる可能性は十分にある。大山氏は「動画RTB市場が日本で大きく成長していくためには、在庫の拡充という媒体サイドの努力と、新しい商材である動画広告の導入/効果測定といった広告主サイドの活用サポートという両サイドからのアプローチが必要不可欠」とコメントしている。
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