マーケティング4.0における新効果指標「PAR(購買行動率)」と「BAR(ブランド推奨率)」について「5A」活用によるロイヤルマーケティング戦略【後編】(1/2 ページ)

「マーケティング4.0」時代のカスタマージャーニー「5A」の文脈ではマーケティングの生産性をどう評価するのか。そして、結局のところロイヤルマーケティングの神髄とは。

» 2019年10月10日 23時00分 公開
[水落絵理香ITmedia マーケティング]

 前編「マーケティング4.0時代のカスタマージャーニー『5A』について」では、オンラインとオフラインの融合が進む中で多様化・複雑化する行動プロセスである「5A」について紹介した。5つのAは「Aware:認知」「Appeal:訴求」「Ask:調査」「Act:行動」「Advocate:推奨」。既存顧客のロイヤルティー(忠誠心)を高め、推奨者を増やすことで、一人一人のLTV(顧客生涯価値)を高めつつ新たな顧客を獲得する。時間をかけてこれをやることこそが「マーケティング4.0」だとセティアワン氏は語った。

5Aのフレームワーク(出典:トランスコスモス)《クリックで拡大》

ロイヤルティーを保持するために

 今日の企業の成長を阻む要因は大きく分けて「情報過多」「ジェネレーションギャップ」「デジタルデバイド」「イノベーションにおける製品自体の価値の低下」「二極化された市場」の5つがある。これらの課題を克服するキーワードが「Locking Loyalty(ロイヤルティーの保持)」だ。

 ロイヤルティーの考え方は時代の変遷に沿って都度再定義されてきた。製品中心であるマーケティング1.0の時代には顧客に期待を持たせ、その期待に応えるモノ作りが求められた(Satisfaction:満足)。顧客中心のマーケティング2.0においてはターゲットとなる顧客を維持するための差別化が重要になった(Retention:維持)。人間中心のマーケティング3.0では顧客自身もニーズに気付いていなかったような革新的な価値を創造し顧客の期待を超える必要が出てきた(Delight:WAO効果)。そしてマーケティング4.0においては、オンラインとオフラインが統合する中で、それが人から人へ伝わるようにすることが必要になっている(Advocacy:推奨)。ブランドは嫌いだけどポイントをためたいからつながっているという顧客も当然ながらいる。企業はただ顧客とつながりを求めるだけでなく、どうやって忠誠心の高い推奨者を増やすかを考えなければいけない。これを時間をかけてやることがマーケティング4.0の課題だ。

5Aにおける新たな評価指標「PAR」「BAR」

 推奨はマーケティング4.0におけるカスタマージャーニーである5Aの究極の目標でもある。どうすれば忠誠心のある推奨者を作ることができるのか。認知(A1)から推奨(A5)へ進む顧客の割合を調べる上で重要になる指標がPAR(Purchase Action Ratio:購買行動率)とBAR(Brand Advocacy Ratio:ブランド推奨率)だ。この2つの指標により、企業がブランド認知をブランド購買にどのくらい「コンバート」できているか、ブランド認知をブランド推奨にどのくらい「コンバート」できているかを評価する。

  • PAR=Act(購買行動を取る人)の数/Aware(ブランドを認知している人)の数

  • BAR=Advocate(自発的に推奨する人)の数/Aware(ブランドを認知している人)の数

 PARが0.5であるということは、認知のための投資(端的にいえば広告費)を10%増やせば5%シェアを拡大することができるということだ。望ましいのは限りなくPARが1に近づくこと。すなわち投資にムダがない状態だが、実際にはなかなか難しい。BARにおいてはなおのことだ。

 認知から購買/推奨への転換率を分解してみることで、どこにボトルネックがあるのかが分かる。それが分かれば必要な介入もできる。BARをさらに細かくミクロの転換率に分けたのが以下の図だ。認知から訴求に至る割合が低ければ「誘因力」が足りず、訴求から調査に至る人が少なければ「好奇心」を醸成できていないことになる。調査から行動へのコンバージョンの低さは「コミットメント」の低さを示す。行動から推奨へつながっていないのは「親近感」が足りない。

「PAR」「BAR」の内訳(出典:トランスコスモス、P.コトラー『コトラーのマーケティング4.0』を参考に作成)《クリックで拡大》
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