社会課題解決を訴求するメルマガで、通常の13倍ものコンバージョンを獲得したみずほ銀行。「CSV」施策が成功した要因を探る。
社会課題の解決に取り組みながら企業としての収益も上げる「CSV(共有価値の創造)」という概念に注目が集まりつつある。CSVは『競争の戦略』で有名な米ハーバード大学のマイケル・ポーター教授が提唱したもので、「CSR(企業の社会的責任)」が自社との事業と切り離された活動が多いのに対し、CSVは自社事業と連動するよう設計する。
一見相反する目的を両立させるのは難度の高い施策に感じるかもしれないが、デジタルマーケティングの領域においてCSVで成果を出している企業もある。例えば、みずほ銀行はインターネットバンキングのセキュリティ強化を図ることを目的としつつ社会課題解決訴求型のコンテンツ発信を採用した結果、目覚ましい成果を挙げている。
同行はなぜCSVに取り組んだのか。みずほ銀行 リテールデジタル開発部デジタルチャネルチームの篠原克宏氏(担当調査役)と竹内 司氏、熊谷尭子氏に聞いた。
みずほ銀行の組織は、法人向けと個人向けに大別される。個人向け組織の中で、デジタルチャネルを利用したマーケティングを担当するのが、3氏の所属するデジタルチャネルチームだ。
同チームでは、インターネットバンキングの生体認証機能/ワンタイムパスワードの利用を促す効果的な施策を模索していた。セキュリティ強化の観点からこれらの機能の利用を義務化している銀行もあるが、みずほ銀行では、利用を推奨しつつも必須とはしていない。顧客のデジタル習熟度は千差万別であり、不用意な義務化は利便性の低下につながりかねないためだ。
さらにいえば、義務化によってワンタイムパスワード利用という「儀式」だけ追加しても、なぜそれが必要なのか顧客にきちんと理解してもらい、納得の上で使ってもらわないことには意味のある対策にはならないという考えもあった。
そこでサービスへの理解を深めてもらうため最初に取り組んだのは、メリットの訴求だ。みずほのワンタイムパスワードには高度なテクノロジーが実装されていることをアピールし、それを設定することがいかに安全性向上につながるかを解説して、顧客向けのメルマガで定期的に配信したのだ。
しかし、残念ながら効果はほとんどなかった。篠原氏は「機能的な訴求を主軸にしたメッセージではお客さまを動かすことができないということがよく分かりました。お客さまにしてみればセキュリティは確保されていて当たり前。いくら機能を訴求してもインセンティブにならないのです」と分析する。
どのようなアプローチが良いのかを思案していたとき、現状を打破するためにメンバーズから提案されたのが、CSV型のアプローチだった。
大手企業を中心にさまざまな業種のデジタルマーケティングを支援するメンバーズではここ数年、企業の社会的課題への解決姿勢が消費者の継続利用や他者への推奨意向に相関することを、具体的なデータを挙げつつ主張してきた。メンバーズの支援先の1つであるトレンドマイクロにおいては、ある優れたセキュリティ防御アプローチに込めた社会課題解決への取り組みをコンテンツ化した結果、施策のゴールとなるウイルス対策ソフト体験版の利用数が、通常型コンテンツに接触したユーザーに比べて5.5倍となるなど確かな実績を挙げている(関連記事)。
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