成熟期の産業のケースが続いたが、次に、これから市場にカテゴリーそのものを浸透させようとるすブランドの例を紹介しよう。
前回のコラムで、新規参入カテゴリーの場合には、イノベ―ターを手厚くもてなして口コミを最大限誘引することが望ましい、と提案した。まさに、このケースがこれにあたる。フィリピンのケースが続いて恐縮だが、ネスレの離乳食ブランドGerberのキャンペーンをご紹介しよう。
苦戦を強いられていたGerberは、キャンペーンに先立ち、消費者のインサイトを再調査した。調査によると、消費者は「瓶詰の離乳食は保存料をたくさん使用しているので、健康に良くない」と誤解しており、この誤解が、市場で離乳食の浸透を阻む大きな要因となっていた。そこで、同ブランドはまず、無農薬/無保存料を訴え、イノベ―ターにトライアルを促し、安全を確認してもらい、他の消費者にその安全性を広めてもらうこととした。
目的を達成するために、The Gerber FarmというコンテンツをFacebook上で展開した。内容は至って簡単だ。参加者が、ゲーム感覚で自分の離乳食を種から栽培し、最後は瓶に入れるところまでを疑似体験するというものだ。
和やかな雰囲気がコンテンツいっぱいに漂う。
光、水、音楽を提供し、健康な果実を育てる。もちろん、農薬は使わない。
朗らかなBGMと共に、農場では果実が収穫の時を迎える。衛生面に配慮しグローブを付けて収穫する。
最後に、防腐剤は使わず、真空パックを施す。
収穫後には、無農薬、無保存料であることを強調するメッセージが流れる。参加者は、体験農場を通してGerberの離乳食が、農薬&防腐剤フリーであることを学ぶ。
私も実際にこの体験ツアーをしてみたが、穏やか気持ちと共に、意識のどこかにあった、瓶詰め離乳食に対する、防腐剤、農薬に対する抵抗感は一掃された。
シンプルな取り組みであるが、結果は非常に高い成約率を弾き出している。
このツアーを体験した、実に60%の消費者がこのツアーをシェアし、サンプルを応募した。そして、サンプルを利用した実に70%の消費者が、継続的購買を決めている。
シェア&トライアル、そして継続的な購買へ。ソーシャルCRMの大きな可能性を示す事例である。
今回は、需要を喚起させてネットワーク価値を最大化するような、攻めのCRMとして、Social CRMの事例をご紹介させていただいた。マーケティングコミュニケーション戦略の立案策定のご参考になれば幸いである。
馬渕邦美 オグルヴィ・ワン・ジャパン 代表取締役。ネオ・アット・オグルヴィ 代表取締役。Sapient inc(US)をスタートに、インタラクティブマーケティング業界で12年に及ぶトップマネージメントを経験し、2009年にオムニコム・グループであるTribal DDB Tokyo ジェネラル・マネージャーに就任。日本における事業の立ち上げを成功させる。2012年オグルヴィ・ワン・ジャパン及びネオ・アット・オグルヴィの代表取締役に就任。 オグルヴィ・ジャパン・グループのデジタルビジネスを牽引している。
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