10階用の基礎の上に30階建てのビルを建設するのは「無理」である。10階建てのビルのために30階用の基礎を作るのは「無駄」である。ビルの工事ならありえないことだが、日本のマーケティングではよく起きている現実である。
第2回目は 「設計図のないビル工事」 というちょっと怖い話です。今回はマーケティング戦略の基本設計がないために部分最適で疲弊している現場が考えるべきことと、全体最適を実現するために経営者が考えるべきことを指摘したいと思います。
「第1回 世界を見れば日本の現在位置が見えてくる」で「日本にはBtoBマーケティングは存在しなかった」と書きました。「では、多くの日本企業が昔からやっているマーケティング活動、あれは何なんだ?」と思う方がいると思います。
展示会への出展、セミナーの開催、あるいは、WebをリニューアルしてのSEOやリスティング、訪問先を確保するためのテレマーケティング、ユーザーアンケートによる満足度リサーチなど、多くの企業は確かにマーケティング施策を行っています。しかし、全社的なマーケティング戦略の基本設計がなく、施策がすべてバラバラに行われているなら、それは「部分最適のパッチワーク」に過ぎません。マーケティング担当者を疲弊させ、予算を食い潰すことはあっても、売り上げに貢献することはないでしょう。
実は、企業が売り上げに困っていない時のマーケティング活動は「部分最適」でも評価してもらえます。売り上げは営業部門が作るので、マーケティングや広報/宣伝は営業の邪魔をしなければ 「何かをやった」 ことで評価されるのです。
展示会であれば、競合他社に劣らないブースを作り、名刺やアンケートを目標通りに収集すれば評価されました。セミナーでは会場を満席にすれば、Webについてはページビューを増やせば、テレマーケティングならアポイントをたくさん獲れば、リサーチならレポートを作成すれば、SFAは導入すれば、それで評価してもらえた時代もあったのです。
これらは、売り上げを作る「手段」がいつの間にか「目的化」してしまった典型ですが、悪いことにこれらの活動はそれぞれが面白く、奥が深いので、担当者はついついそれが目的だと思い込むようになってしまうのです。
例えば、各社で予算削減のターゲットになっている「展示会」は、企業にとっては新規見込み客を獲得する重要な活動です。でも、準備や当日の運営にあまりにも手間が掛かるので、担当者にとっては会場でアンケート用紙や名刺を集めることが「目的」になってしまうことがあります。マーケティング設計という観点から見れば、展示会は「種蒔き」に例えられます。まだその先に雑草取り、剪定、肥料や水やりなど収穫までの長いプロセスがあります。しかし、最終日の打ち上げのビールで盛り上がった後は、来場者にお礼のメールを配信して、翌週からはもう次のイベントの準備、というケースが多いのです。こういう担当者が、ある日、展示会の売り上げ貢献をROIなどの数値でレポートしなさい、と言われても対応できるわけがなく、その結果が予算削減なのです。
このように、マーケティングの現場が部分最適に陥っている原因こそ、「マーケティング戦略の基本設計がない」ことなのです。
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