日本企業の弱点はまさにマーケティングである――。円が安く、国内に市場が溢れていた時代ならマーケティングは必要なかったかもしれない。しかし、時代は変わったのだ。シンフォニーマーケティングの庭山一郎氏が日本企業に向けて鳴らす警鐘。
こんにちは、シンフォニーマーケティングの庭山と申します。
今日から8回の連載で「日本の未来を切り拓くBtoBマーケティング」と題してコラムを書くことになりました。
今、日本のBtoB(法人営業)企業はマーケティングの黎明期を迎えています。「マーケティングなどは化粧品や家電、レジャー産業などの一般消費者向けの商材を売っている企業の話であり、法人相手の企業には縁のない話だ」と考えている企業は今でも多く存在します。顧客を訪問し、まず顔を覚えてもらい、熱心さをアピールし、夜の接待や休日のゴルフで人間関係を構築する、これこそが法人営業だと固く信じている世代が存在することも事実です。
しかし、現実に目を向ければ、アポなしで訪問できたのは昔の話です。アポイントがなければビルにも工場にも入れない時代です。先方に関心を持ってもらえなければ電話に出てもらえず、ようやく電話でつかまえても「何かあったらメールでお願いします」と言われる始末です。また、若い世代の人は接待を好みません。「ゴルフはするけど接待ゴルフは楽しくないので……」とはっきり言う世代が製品やサービスの選定をしています。そして、何よりグローバルなマーケティング戦略がなければ中国にも韓国にも負けてしまう時代です。そうした環境の変化を背景としてこの連載コラムを執筆します。
では、まず現在位置を確認することからはじめましょう。
マーケティングの発祥の地は米国ですが、その米国に比べて日本のマーケティングが大きく遅れていることはあまり知られていません。その理由を説明しましょう。広義のマーケティングの中で最も人の目に触れるのは広告です。広告とは、テレビ、新聞、雑誌、そして屋外や屋内で見られるサインボードなどを媒体としたマーケティング活動の1つと定義します。日本は広告分野だけは世界レベルなのです。特に、広告のクリエイティブに関しては、15年前に米国に追いつき、いまだに世界のトップクラスを維持しています。
しかし残念ながら、突出しているのは広告だけで、マーケティングの他の要素は大きく遅れています。分野によってはその差はさらに大きく開いていると言えます。私は1993年から米国のダイレクトマーケティング協会の会員として先進国のマーケティングを見ていますが、特に顧客データを活用するようなマーケティングでは、BtoCでも10年、BtoBに至っては15年から20年は遅れていると思います。では、具体的にどう遅れているのでしょうか?
例えば米国では、業種や規模を問わず、マーケティングの専門部署が存在しない企業はほとんどありません。それらの部署には大学や大学院でマーケティングを学び、実務経験を積んだマーケターがいて、年間のマーケティング戦略や、売り上げまでの各プロセスの評価をしています。ベンチャー企業であっても、CMO(チーフマーケティングオフィサー)と呼ばれるマーケティング担当者がいないと、まだスタートアップに必要な経営幹部が揃っていない、と見なされ、投資対象から外されたり、投資金額を抑えられたりします。
また経営者(CEO)を輩出している部門を見ると、恐らくマーケティング部門が最も多いでしょう。学歴や入社時の部門は技術畑であっても、その後マーケティング部門でキャリアを積み、トップマネージメントになった人も少なくありません。
これが、「トップセールスはセールスマネージャーになるが、トップマーケターはCEOになる」と言われる所以なのです。
一方の日本では、東京証券取引所に上場している企業でさえ、マーケティングの専門部署を置いている企業はいまだ少なく、マーケティングを冠した部署があったとしても、実際は広告や広報を担当している部署だったりします。営業や販売代理店に有望見込み客リストを供給し、売り上げへの貢献をROMI(マーケティング投資回収率:リターンオンマーケティングインベストメント)で評価される欧米のマーケティング部門とはまったく別の存在です。もちろんCMOと呼ばれるマーケティングの最高責任者を置いている企業はごくわずかです。それどころか、マーケティング部門そのものが左遷ポストになっている企業すら存在し、暗澹とした気持ちにさせられます。
では、なぜここまで日本のマーケティングが遅れてしまったのでしょうか?
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