日本企業の弱点はマーケティング部門の機能不全にあり、特に「デマンドジェネレーション」(営業案件創出)の仕組みの欠如は深刻なのである。
日本と欧米のBtoB企業を比較した場合、唯一大きく劣っているのはマーケティングです。そこに気がついた日本企業は新しくマーケティング部門を設立して対応しようとしていますが、問題なのは多くの企業が「マーケティング部門を作って運営した経験がない」ということです。どういう人材を集め、どういったミッションや数値目標を与え、どのように評価したらよいのかが判らないのです。判らないまま作った組織が満足に機能しないのは当たり前なのですが、特に注意すべき課題は以下の2つです。
BtoB企業が「マーケティング」と聞いて思い浮かぶ業務は実にさまざまです。会議の場で参加者それぞれが、1つの言葉を違う定義(やイメージ)で使うことほど不毛なものはありません。現在、さまざまに定義付けされている「マーケティング」(という言葉)を整理すると、大きく以下の3つにまとめることができます。
いわゆるマーケティング調査といわれるもので、製品/サービスを開発するためのリサーチをはじめ、顧客満足度調査や認知度調査などさまざまな手法の調査が存在します。
マス媒体への出稿はもちろん、屋外広告、展示会出展、ユーザー会、共催セミナー、Web広告、キャンペーン、そして媒体の記者を対象にした広報活動を指します。多くの企業がすでに行っている活動であり、持っている組織です。
営業や販売代理店が必要とする「営業案件」を創出する活動で、日本企業がほとんど持っていない機能です。これこそが最大の弱点です。
シンフォニーマーケティングでは、[3]デマンドジェネレーションに特化したサービスを提供していますが、実は弊社の顧客企業でさえ、他部門から異動してきた担当役員と話をしていると「シンフォニーさんはリサーチのお仕事ですよね」などと言われて説明にひと苦労します。注意点の1番目である「マーケティングの定義を整理する」とは、この3つを再定義して、人員と予算をそれぞれに再配分することを指します。
もう少し具体的に説明しましょう。例えば、製造業の場合、製品開発をしていますから、そのための市場調査や競合調査などは日常的に行っており、これを「マーケティング」と定義している場合が少なくありません。市場データを集め、分析/解析をすることが重要なのはいうまでもありませんが、これはむしろ、研究開発や設計のプロセスとして位置づけ、人や予算もR&D(研究開発)に統合すべきなのです。
また、多くの企業が旧来から持っている広告や広報(PR)などの部門は、市場や投資家から支持される企業ブランドを作り、守っていく上で非常に大切な役割ですが、直接売り上げに貢献する活動ではありませんし、即効性を求めてはうまくいかないものです。日経新聞に広告を出せば翌日から企業ブランドが跳ね上がるわけではないのです。
このような広告や広報などの、長いスパンで企業ブランドを育成し、守っていくことをミッションとした「マーケティングコミュニケーション(マーコム)」と、営業案件を営業部門や販売代理店に供給し、毎月の売り上げに貢献することをミッションにした「デマンドジェネレーション」を分けて再定義し、人と予算を再配分すればすっきりするでしょう。マーケティングの先進国である米国のBtoB企業でも、この10年で分散していた社内のマーケティング部門をデマンドジェネレーションへ再統合する動きが進んだのはこうした理由からです。
つまり、日本のBtoB企業が早急に整備すべきなのは、この[3]デマンドジェネレーションなのです。
デマンドジェネレーションとは、売っている製品やサービスを購入してくれる可能性がある企業の担当者のリストを収集(リードジェネレーション)し、それを名寄せや営業対象外の排除を行った上で啓蒙/育成(リードナーチャリング)し、そこから有望な見込み客を絞り込む(リードクォリフィケーション)までの一連の業務です。
営業部門や販売代理店に、この絞り込んだ営業案件を供給する仕組みこそが、今の日本企業に最も足りない機能です。ひと昔前のように、御用聞きにまわれば仕事が出てきた時代は終わりました。それどころか、用事がなければアポイントが取れず、アポイントがなければビルや工場にも入れないのが今の時代です。しかも「挨拶だけでもお願いします」「5分だけでも会っていただけませんか?」というアポイントは、多くの場合、何の案件も生みません。相手に明確なニーズがなければ営業を支援することには結びつかないのです。
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