noteは2025年11月期の決算で、売上高41億4100万円(前期比25.0%増)、営業利益2億5600万円(同384.7%増)を達成し、創業以来の最高益を記録した。なぜnoteは、このタイミングで爆発的な利益成長を実現できたのか。
FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックスタートアップにて金融商品取引業者の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、広告DX会社を創業。サム・アルトマン氏創立のWorld財団における日本コミュニティスペシャリストを経て株式会社X Capitalへ参画。
「生成AIでテキストメディアは終わる」──この言説は誤りだったようだ。
ChatGPTを筆頭とする大規模言語モデル(LLM)の進化は、情報の検索や要約、そして生成に要するコストを劇的に引き下げた。その帰結として、ユーザーが個別の記事を精読する手間を省き、AIが提示する「正解」のみを享受する「ゼロクリック現象」が一般化すると予測されていた。
テキスト中心のメディアビジネスは、トラフィックの減少と広告価値の毀損(きそん)により、存亡の危機に立たされるというのが市場の共通認識であった。
しかし、noteの2025年11月期の決算は、こうした悲観的な予測を鮮やかに覆すものであった。
同社は売上高41億4100万円(前期比25.0%増)、営業利益2億5600万円(同384.7%増)を達成し、創業以来の最高益を記録した。流通総額(GMV)も56億800万円(同29.1%増)へと拡大し、同社が単なる生き残りではなく、むしろ成長を加速させていることが証明された。
なぜnoteは、このタイミングで爆発的な利益成長を実現できたのか。
その背景には、AI時代における「情報の価値」の根本的な再定義と、それを見越した構造的な優位性が存在する。
市場が最も懸念していた「生成AIによる代替」が起きなかった理由は、AIが得意とする領域と、noteが提供する価値の領域が根本的に異なっていた点が挙げられる。
生成AIの本質は、膨大なデータから確率的に算出した言語の抽出と情報の要約にある。事実確認や一般的なハウツーといった「情報」の価値がAIによって毀損される一方で、noteのコンテンツ戦略の中核は「物語」(Narrative)に置かれていた。
AIが代替できない第一の要素は、個人の固有の体験である 。AIには肉体も人生もなく、特定の状況下で人間が抱く微細な感覚を再現することはできない。
例えば「40歳で退職し、冬の朝の寒さを感じながらパン屋を開業した葛藤」といった叙述は、実在する個人の背景があって初めて読者の心に響く。AIによる生成はあくまで模倣やハルシネーションの域を出ず、読者はそこに宿る「軽さ」を直感的に見抜く。
第二に、思考のプロセスの価値である 。AIは最短距離で結論を提示するが、人間の読書体験においては、結論に至るまでの迷いや脱線、葛藤こそが共感の源泉となる。
AIが要約すればするほど、そこから「文脈」という人間的な価値が削ぎ落とされてしまう。noteの記事が読まれるのは、それが効率的な情報伝達手段だからではなく、他者の思考を追体験する装置として機能しているからである。
加えて、感情の起伏(Emotion)もAIが苦手とする領域だ 。非合理的な「自虐」や独自の「たとえ話」といった、平均から外れた「外れ値」としての表現が、画一的なAIコンテンツに飽和した読者をひきつける磁力となった。
また、有料限定コンテンツは学習の対象外となっていたことから、検索エンジン上での「ゼロクリック問題」に対する防御策になった。
2025年1月に発表された米Googleとの資本業務提携は、今日におけるnoteの躍進を示唆していた。Googleによる約5億円の出資は、同社がnoteを「高品質な一次情報の供給源」として認めたことを意味する。AI生成コンテンツによる情報の汚染が進む中で、大手AIテック企業は人間が書いたディープなコンテンツを渇望しているわけだ。
直近では米OpenAIが健康やヘルスケアに特化したChatGPTHealthというサービス導入に際して、医療データを取り扱う米スタートアップ・Torchを買収したことが話題となっている。
今後の生成AI領域で覇権を左右するのは、「独自のデータを保有していること」に尽きるだろう。noteはその点で一般的なキュレーションメディアとは一線を画し、AI企業との提携を勝ち取ったのだ。
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