次に、モデル化によって抽象度が高まった「指標グループ」という粒度で、誰が何の指標を見るべきかについて再整理してみましょう。
ここで重要なのは、一番左の「切り口」です。サイト全体を対象として指標の増減を調べても、大きなヒントは得られません。数字を見て判断する人が必要とする単位で指標を区切り、区分間の「違い」に注目する必要があります。例えば上の図では、編集長はテーマ別のニーズとパフォーマンスを見ることで、テーマごとの予算配分(=力の入れ方)を判断します。また、編集者別のパフォーマンスを見ることで、編集者への指示や評価の参考にできます。同じように、各編集者は自分が担当したライター別のパフォーマンスを知りたいものです。編集者とライターにとって、協業した個別の記事ごとの詳細なパフォーマンスは、今後の記事の編集、執筆の参考になります。
また、レイアウトやデザインなどを決めるデザイナーは、デザインテンプレートごとのスクロール率や読了率、広告枠のパフォーマンスが分かると、ページ分割の適切な単位や広告枠の位置、大きさなどを改善できるようになります。「数字が全て」というわけではなく、アンケートやインタビューなどの定性的な調査手法と併用することで、デザイン的な判断や社内での合意形成がスムーズになります。
このように、誰が何を知ると、どのような改善アクションや意思決定につながるのか、にまで踏み込むことで、「なるほど」で終わらない意味のあるWeb解析を実現できるようになります。
誰が何のためにレポートを見て、何を分析し、どのような意思決定をするのかが明確になりました。これで、レポートの「見せ方」を決めるのも容易になったはずです。ツールでレポートを作る前にエクセルで理想のレポートを試作し、実際にそれを見て判断する人に擬似的に分析してもらうことで、レポートの有用性を検証してください。先にツール上でレポートを作ると、レポートがツールの制約を受けてしまい、本末転倒になります。
「Dropboxの驚きの機能」という記事はタイトルで釣っているため、サイトTopやメルマガ、RSSフィードでのクリック率が高く、多くの人にリーチした。しかし、訪問後のアンマッチが発生し、読了率や滞在時間など満足度を示す指標が下がった。とはいえ、ページ内に掲載された各種リンクのクリック率はそこそこあるので、サイト内回遊が発生していると考えられる。増えたトラフィックは完全に無駄だったというわけではなさそうだ。サイト立ち上げ時は、このようなパンダ的なコンテンツも必要であり、狙い通りの結果になった。
「Web解析のススメ」という記事は地味なタイトルなので訪問回数は増えなかったが、滞在時間が長いのでじっくり読んでもらえたようだ。ただし、読了率が低いので、コンテンツの分量が多すぎたか、途中でつまらなくなった可能性がある(要調査)。ただし、ソーシャル上である程度シェアされているので、内容の魅力には問題がなさそうだ。はてブ率が高いのは、レファレンスとしてブックマークされたためと思われる。将来の再訪問やSEOにも貢献しそうだ。カテゴリTOPページから定常的にリンクし、効果の経年変化を確認しよう。
これなら、多角的で総合的な判断ができそうです。同じように、5で洗い出したレポートの理想イメージを作成します。その後で、解析ツールを駆使し、必要に応じてカスタマイズしつつ、理想のレポートを実現していくのです。
今回は、「アクセス解析」の常識を忘れて、意思決定や経営判断につながる「Web解析」を実現するための考え方を具体的に紹介しました。ポイントをまとめると以下のようになります。
企業のゴールを組織別のゴールで分解すると、アクションにつながる指標を定義しやすくなる
顧客の視点で指標を構造化すると、指標への理解が高まり、網羅性を高められる
複数の指標を組み合わせると、複合的な判断ができるようになる
最終的なレポートをダミーデータで試作し、それが判断につながることを確かめてからWeb解析の実装を進める
Adobe Systems 清水誠 Webアナリスト/PM。1995年から凸版印刷やRazorfishにて大手企業へのWebコンサルティングに従事した後、ウェブクルーで開発/運用のプロセス改善、日本アムウェイで印刷物のデジタル化とCMS導入、楽天でアクセス解析の全社展開、ギルト・グループではKPIの再定義とCRMをリード。2011年に渡米、米国ユタ州のAdobe Systemsにてデジタルマーケティング製品の品質改善に取り組むかたわら、執筆やセミナー活動も続けている。アクセス解析イニシアチブプログラム委員。eVar7共同創始者。サンクトガーレン社外CMO。ブログ:実践CMS*IA
連載バックナンバーはこちら⇒【連載】清水誠のWeb解析ストラテジー
第1回 レポート分析のプロトタイピングで意思決定フローを作る
ページビュー、ユーザー数、広告のビューやクリック数……。Webのアクセス解析で一般的なこれらの指標は果たして、あなたの会社の経営判断に寄与しているだろうか? 「清水誠のWeb解析ストラテジー」第1回では、メディアサイトを例に、適切な意思決定を支援する指標の定義方法およびレポーティング方法を解説する。
第2回 メーカーサイトでもここまで分かる貢献度
ページビュー、ユーザー数、広告のビューやクリック数……。Webのアクセス解析で一般的なこれらの指標は果たして、あなたの会社の経営判断に寄与しているだろうか? 「清水誠のWeb解析ストラテジー」第2回では、製造業のサイトを例に、適切な意思決定を支援する指標の定義方法およびレポーティング方法を解説する。
第3回 「メルマガ」ではなく、「newsletter」では?
言葉の持つイメージによって、理解が制約を受けることがある。企業が配信するメール=メルマガと比喩的に表現すると、面白い文章を書いて全員に一斉配信するもの、と思い込んでしまいがち。米国生活中に実際に届いたメールの内容とタイミングについて具体的に紹介する。
第4回 「アクセス解析」でも「Web解析」でもない
Web Analyticsは「アクセス解析」や「Web解析」と訳されますが、実はどちらも微妙に異なります。「分析」と「解析」の違い、「アナリシス」と「アナリティクス」の違い、「ログ」や「アクセス」ではない理由など、紛らわしく悩ましい現状について整理しつつ、注意点をまとめました。
第5回 「PDCA」の意外な歴史と本質
略語が1人歩きし「改善は継続が大事。がんばろう」で終わっていることが多い「PDCAサイクル」は、デミング博士によって1950年に日本に輸入され、サンプリングと分布という統計的なアプローチと品質管理の概念は日本の産業に大きく影響を与えた。100年の歴史から学ぶべきことについて、改めて整理する。
第6回 データはアウトプットではなくインプット
Web解析=効果測定、というイメージがあるが、終わった施策の効果を後で調べ、改善の余地があれば改善するのは従来型の古いWeb解析。データの取得と解析を最後のアウトプットではなく、最初のインプットとして位置づけることのメリットについて紹介する。
第1回 ビッグデータという時代観
「ITmedia マーケティング」にはビッグデータをテーマとしたコラムがいくつかある。ユラス 代表取締役 井浦知久氏が執筆するこの寄稿記事は、しかし、ビッグデータが人類に及ぼす影響までを視野に入れたスケールの大きさで、ほかの寄稿記事と毛色を異にする。
第1回 ビッグデータアナリティクスの全体像
情報技術とマーケティングの関係は今後ますます密接になっていく。では、ITの世界はいま、どうなっているのか? そして、今後どうなるのか? 伊藤忠テクノソリューションズの大元隆志氏が5つの技術トレンドと3つのパラダイムシフトを切り口に、マーケターにとっての「ITのいま」を読み解く。
第2回 世の中のあらゆる事象を数値化し、ビジネスに反映させる
世の中で起きているあらゆる事象を数値化し、ビジネスに反映させるにはどうすれば良いか? 情報処理速度数msというポテンシャルを活かせば何ができるのか? デジタル技術の革新により、今や、マーケターには常識を超える想像力が求められている。
第1回 データマイニングで見込み顧客を狙い撃ち
予測・発見型のデータマイニングをマーケティングに活用するにはどうすればいいのだろうか? SAS Institute Japan マーケティング本部長 北川裕康氏が、実例と自身の体験をもとにマーケティングに活用できるデータマイニングの基礎を解説する。
第2回 ソーシャルメディアの”感情”分析で「ブランティングの第3の波」を乗りきる
ソーシャルメディア上のデータを分析して、失業率増加のタイミングを予測する国連。企業は膨大な会話データをブランディングに活用する。いまやソーシャルメディアは分析対象の宝庫である。SAS Institute Japan マーケティング本部長 北川裕康氏が最新事例を交えてソーシャルメディア分析の最前線を紹介する。
第3回 成功事例で考えるマーケティング領域のビッグデータ活用
ビッグデータがマーケティング分野に及ぼす影響を、先行事例をもとに解説。例えば、クーポンの償還率が10%から25%に改善されたり、顧客の行動データを分析する時間が11時間から11秒に短縮されたり。ビッグデータの分析によって、マーケティング分野にイノベーションをもたらすことが証明されている。では、そのような能力を持つ企業とは?
第4回 マルチチャネルのハイブリッド分析で”儲かる”Webサイトを構築
「Webサイトから生成されるデータ」と「その他の顧客接点から生成されたデータ」を組み合わせて分析することで、Who、Whyの解明が実現する。ポイントは、顧客体験を分析視点の中心に据えること。これまで見えなかった顧客の動きが明らかになる。
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