ファッションテック参入のルグラン 泉 浩人氏に聞く データを価値に変える方法とは?気象ビッグデータ×機械学習で毎日のコーデを提案(2/3 ページ)

» 2017年05月30日 07時00分 公開
[野本纏花ITmedia マーケティング]

気象データから女性に価値ある情報を生み出すという難題

 天気予報を見てその日のファッションコーディネートを考えるという行為は、快適に暮らす上で欠かせない日常的なものだ。しかし、だからこそ、日々の悩みの種であるともいえるのではないだろうか。「雨が降りそうだからサンダルはやめてレインブーツを履こう」「お客さまが来るからジャケットに合う格好にしないと」「暑くなりそうだから肌に張り付かない素材を選ばなくては」など、コーディネートを制約する条件は意外に多い。もちろんTPOだけ最適化できればいいのではなく、他人から“オシャレですてきな人だ”といった好意的な評価を受けたいという欲求も満たす必要がある。

 それだけ神経を使ったにもかかわらず、天気予報が外れて、突然の雨に降られた日には、もうテンションはガタ落ちになる。単純にぬれて不快になりたくないという理由だけではない。お気に入りのパンプスがダメになってしまうことが悲しいのである。逆に、雨対策をして結局降らなかったとしても、「それならもっとかわいい服にすればよかったのに」と後悔する羽目になる。女心は複雑なのだ。

 こうした生活者の天気予報に対する期待と勘違いから生じていたストレスから解放してくれるのが「TNQL」だ。TNQLは、気象ビッグデータを分析し、天気や気温の変化に合わせてコーディネートを提案するWebサービス。AIを活用してファッションにおけるユーザーの好みを学習するため、好みと天気、両方にマッチしたコーディネートをイラストで提案してくれる。

その日の天気にあったコーディネートをイラストで提案(左)。その日のお気に入りのコーディネートをアプリ内のカレンダーに保存できる機能も

 TNQLでは、気象情報の活用支援を行うハレックスが提供する、全国を1キロ四方に分けて37万箇所で測定した詳細な気象データを活用している。ユーザーのスマートフォンの位置情報とこの気象データとを照らし合わせ、Webサイトにアクセスするとすぐにその日の天気予報と天気に合わせたオススメのコーディネートを表示する。気象データの参照地点は自分の見たい場所に変更することも可能であり、旅先の天気を見て持っていく服を決めたいときなどに役立てることもできる。

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 開発のきっかけは、保有する気象データをもっと有効活用できないかと模索していたハレックスから相談を受けたことだった。従来、ルグランはアパレル業界のクライアントが多く、アパレルメーカーが保有する販売データと掛け合わせることで、何か見えてくるものがあるのではないかと考えた。

 例えば、最高気温がある温度を下回るとコートが売れ始める傾向が見えてくる。しかし一方で、単純に北から順に売れ始めるのかというと、そうではない。実はマーチャンダイジングの都合で、東京や大阪といった人口の多い地域を起点に全国一斉に販売を始めるからだ。当然ながら東京でコートが売れ始めるころには、北海道はすっかり寒くなっている。気象データに基づいて販売をスタートできれば、機会損失を防げるだろう。

ルグランの代表取締役 共同CEOの泉 浩人氏

 「とはいえ、流通や生産管理の問題や、プロモーションとの兼ね合いなど、現実的に他の要素が複雑に絡み合っているため、気象データには非常に興味はあっても、独自でデータを購入してシステム開発に踏み切るまではハードルが高いという声が聞こえてきました。それならば、われわれでプラットフォームを作ってしまい、まずは具体的なイメージをつかんでもらえるようにしようと考えたのです」(泉氏)

 コーディネートはイラストで描かれているが、その中に特定のブランドの洋服だけでコーディネートしたものを加え、そこからECへ誘導できる。あるいは、TNQLの基幹システムをブランドへOEM提供し、全てのコーディネートを特定のブランドの商品だけを使って作ることも想定している。

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