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» 2020年09月10日 09時00分 公開

これからの広告の定石を語る【前編】:トライブを制する者がマーケティングを制する (1/2)

成功する広告は他と何が違うのか。マーケターが押さえておくべき新しい広告戦略の定石と注目のマーケティング手法について、最新事例とともにマーケティング戦略の専門家が解説する。

[池田紀行,トライバルメディアハウス]

 広告コンテンツが大量消費され、嫌われがちな現代。効果を発揮する広告は何が違うのか。ターゲットの捉え方からコンテンツの作り方、届け方までマーケターが押さえておくべき新しい広告の勝ちパターンについて、2人のエキスパートによる解説を前後編で紹介します。鍵は「トライブによるリフレーミング」。今回は、好き・嫌いという態度がマーケティングに及ぼす影響や、文脈にそったコンテンツを作る上で重要な「トライバルマーケティング」の考え方をトライバルメディアハウス代表取締役社長の池田紀行氏が解説します。

※本稿はトライバルメディアハウスが2020年8月6日に開催したWebセミナー「好意度と購入意向を10倍以上にした、広告の『新しい定石』」の内容を再構成したものです。

ターゲットを「トライブ」で捉えるということ

池田さん 池田紀行
トライバルメディアハウス代表取締役社長 1973年、横浜市生まれ。ビジネスコンサルティングファーム、マーケティングコンサルタント、クチコミマーケティング研究所所長、バイラルマーケティング専業会社代表を経て現職。大手クライアントのソーシャルメディアマーケティングや熱狂ブランド戦略を支援する。日本マーケティング協会マーケティングマスターコース、宣伝会議講師。2017年4月から2019年3月まで社会情報大学院大学客員教授。

 SNSの普及で多くの人たちが動的にリアルタイムにつながるようになった現在、流行の在り方が昔とは変わってきました。誰もが知っているヒット商品ばかりではなく、特定の人たちの間で大きな話題になっているものの震源地を離れると誰も知らない「局地的ヒット」ともいえる商品やコンテンツがどんどん増加しています。

 「ミスチ」の略称で知られるチーズケーキのD2Cブランド「Mr. CHEESECAKE」、京都と大阪で展開するブティックホテル「HOTEL SHE,」、アニメキャラクターによるラッププロジェクト「ヒプノシスマイク」などがその代表例です。

 不特定多数の市場にマスメディアを通じてマス商品を訴求していくマスマーケティングの時代が終わり、ターゲットの見定め方を見直す必要が出てきています。そこで紹介したい考え方が「トライブ」を対象とする「トライバルマーケティング」です。

 トライブとは共通の興味関心を持った集団のこと。トライバルマーケティングとはつまり「〇〇好きな人たち」ごとにマーケティングを最適化する考え方です。複数のトライブを組み合わせた「トライブス」を形成しマーケティングのターゲットとすると、よりダイナミックな展開が生まれます。ちなみに当社「トライバルメディアハウス」の社名もここに由来します。

 トライブ同士は必ずしも好意的なつながりとは限らず、敵対していたり無関心の場合もあります。対象のトライブがどのトライブと結び付きが強いかを見抜く目を養い、文脈をセットで考える癖をつけることが大切です。なぜ文脈に注目するのかといえば、日本が非常にハイコンテクストなコミュニケーション文化を持つ国だからです。「空気を読む」「あうんの呼吸」などの言葉もあるように、日本語では文脈を察する力がないとコミュニケーションが成立しません。

 トライブを理解するのに分かりやすい例がInstagramの「ハッシュタグ」です。例えば「#YAMAHAが美しい」。これはもともとユーザーが勝手に作ったハッシュタグで、これが付いた写真を一覧してみると、プロダクトデザインの格好良さが主役ではないことが分かります。もちろんその種の投稿も散見されはしますが、このハッシュタグを使う多くの人が伝えたいのは「こんな素晴らしい季節に、こんな素晴らしい場所に、一人で走ってきて最高な時間を過ごしている自分」という文脈です。走りを謳歌する楽しみをYAMAHAのオートバイを媒介としながら伝えているのです。

 ハッシュタグは組み合わせによって文脈を表すことがあります。例えば「#皇居ラン」と「#ランニング好きな人とつながりたい」「#ランニングスタイル」を組み合わせる人が好むスポーツブランドはNikeで、「#サブ3」だとアシックスが多いというように、どんなトライブの人たちのどんな文脈消費にどんなブランドがあっているのかが分かるのです。

 ハイコンテクストな文化圏において、文脈はハッシュタグを通じて、人々がどのようなトライブスを形成するかを見える化させているといえます。効果的な広告を作るには、ターゲットをトライブとして見定めるだけでなく、どんな文脈消費をしているかまで理解することが大切です。

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