テレビやラジオをスマホやPCに最適化した結果、広告主にとってどのような価値が生まれるのか。
今、テレビやラジオといったマスメディアの在り方が大きく変わろうとしている。電通が2018年2月に発表した「日本の広告費2018」によると2018年のテレビ広告費は約1兆9000億円で前年比98.2%と微減しているのに対し、インターネット広告費は約1兆7000億円で前年比116.5%。5年連続で2桁成長を遂げている。両者の立場が逆転するのは時間の問題だろう(関連記事:「電通『2018年 日本の広告費』を発表」)。
しかし、逆境の中でテレビやラジオが何もしていないわけではなく、時代の変化に合わせた新たな取り組みは動き出している。「TVer」と「radiko」はその代表例といえるだろう。
2019年7月24日、アドビ システムズの年次イベント「Adobe Symposium 2019」では「TVer・radikoにみるコンテンツと広告の関係」と題したパネルディスカッションが行われ、業界のキーパーソンが新たな時代のメディアの在り方を語り合った。登壇者はTBSテレビの城間弘光氏(総合マーケティングラボ ビジネス戦略部 次部長)、radikoの岡田真平氏(業務管理室長 兼 業務推進室次長)、電通の布瀬川 平氏(ラジオテレビ局 ビジネス戦略部長 )。アドビ システムズの伊藤 維氏(Customer Success Manager)がモデレーターを務めた。
セッション冒頭、モデレーターの伊藤氏は「411分」という数字を提示した。これは今日、日本人の1日当たりの平均メディア接触時間だ。時間に換算すると7時間弱。つまり、われわれは起きている時間の半分をメディア接触に費やしているのであり、メディアが生活の中心に位置付けられていると言っても過言ではない(関連記事:「博報堂DYメディアパートナーズ「メディア定点調査2019」 スマホ接触時間は1日117.6分に)。
昨今では中でも特にデジタルデバイスとの接触割合が伸長しており、5G開始により今後この比率はさらに高くなると予想される。
デジタルデバイスといえば今はスマートフォン一強だ。2009年から約10年間でスマホ接触時間は約6倍と、めざましい成長を遂げている。その流れの中で、既存のマスメディアが自社のコンテンツをスマホに最適化させ、独自のインターネットビジネスに乗り出している先端例がTVerとradikoといえる。
2015年10月にサービスを開始したTVerは、民放テレビ局で放送された過去一週間分の番組を、専用アプリやWebブラウザを通じて無料で閲覧できるサービスだ。アプリダウンロード数は2000万を突破しており、月間再生数は6月に1億回を超えた。視聴者はF1層(20〜34歳の女性)が多く、全体の35%強を占める。
2010年4月スタートのradikoは、日本国内のラジオ放送をインターネット上でリアルタイムに配信するサービスで、Webブラウザと専用アプリのどちらかで視聴できる。民放連加盟ラジオ局の101局のうち93局が参加しており、デイリーユニークユーザーは135万〜145万人、1ユーザー当たり平均で約130分聴取する。有料プランの「radiko.jp プレミアム」加入数は約62万。男性は20代以下、女性は40代以下の層が主要聴取層だ。2014年には全国のローカルラジオを聴けるエリアフリー(有料サービス)、2016年には過去一週間の放送を好きなタイミングで聴けるタイムフリーを開始した。2017年にはスマートスピーカー対応と、年々アップデートされている。
テレビやラジオがインターネットに進出する理由は非常にシンプルだ。TBSテレビの城間氏は、「若い人たちがスマホやPCでコンテンツを楽しむなら、テレビ放送局も配信先を変えればいいだけ」と語る。
ラジオに関してはデバイスの問題もある。かつて誰でも所有していた「ラジカセ」を持つ人は今やほとんどいない。また、都心の場合、高層ビルに電波が阻害されてクリアな音声を受信できない状態が続いていたという事情もある。もともとユーザーが利用するスマホに向けて高品質な音声でコンテンツを配信できるradikoへの移行を各局が推奨するのは必然でもあったのだ。
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