パナソニック コネクティッドソリューションズ社の関口昭如氏がB2B視点のWebアクセス解析で心掛けたいポイントを紹介した。
空港やオフィスで使われる顔認証システムをはじめとした多様なB2Bソリューションを手掛けるパナソニック コネクティッドソリューションズ社。2019年4月にはファミリーマートと共同でIoTを駆使した自動化コンビニの実証実験を始めたことでも話題になった。
関口昭如氏は同社Webマーケティング部で部長を務める。B2Bメーカーで長らくデジタルマーケティングに関わり、数々の案件創出を手掛けてきた関口氏は、2018年10月にパナソニックに入社している。
今回、関口氏はアドビ システムズの年次イベント「Adobe Symposium 2019」で講演し、B2BデジタルマーケティングにおけるWebアクセス解析で心掛けたいポイントを紹介した。
購買行動におけるデジタル化の波はB2Bの領域でも進展している。情報収集の多くはデジタルチャネルで行われ、レビューや専門メディア、オフラインも含むさまざまなチャネルを往き来する。故に企業は自社のWebサイトだけではなく外部エコシステムからの流入を意識する必要もある。
Webサイトにしても、もちろんただあればいいというわけではない。来訪者にとっても気付きのあるコンテンツを提供できなければ、どんなに流入を増やしても意味がない。逆に、ただ流出させないことだけを考えればいいのかといえば、それも違う。例えばあえて戦略的にパートナーのサイトに飛んでもらうといったこともあるから、単純に流出の増減だけを評価するのではなくきちんと目的を捉えなければならない。
B2Bデジタルマーケティングでは、そうした統合的なカスタマーエクスペリエンス(CX)の上でデマンドジェネレーション、つまり案件をどう作るかが課題になる。そして、それを下支えするのがデータドリブンな活動だ。
B2Bビジネスにはさまざまな特徴がある。購買の意思決定が複数人でなされること、Webサイトの訪問目的は購入だけに限らないこと、1セッションで行動が完結しないことなどはその代表的なものだ。
それらの特徴を踏まえた上でWeb解析に求められるのは、企業のマーケティング施策につながる高速PDCAサイクルの支援とCX向上だ。さらにいえば、勘や経験頼みの意思決定から脱却してデータドリブン文化を根付かせることも期待される。
関口氏は今回、これまでの知見を基にB2BマーケティングにおけるWeb解析で心掛けたいポイントとして以下の10カ条を紹介した。
「Webアクセス解析はマーケティングのための分析かCX改善のための分析か、目的に応じて指標設定や解析手法も異なる」と関口氏は語る。しかし、多くの企業ではこのことについての理解が不足しており、目的が明確でなく漫然とPVやUUの数字をレポートしている様子が多く見受けられるという。
まずは何のためにデータ分析をやるのか、ビジネス要件からブレークダウンした上で指標に落とし込まなければならない。データ分析はややもすると手法に走りがちだが、その前にまず「なぜやるのか」と、意識的に原点へ立ち戻るのだ。
案件創出に向かうプロセスをファネルで捉え、その過程で個々の指標も見るというのがあるべき順序だ。営業プロセスにどう入り込めるかという視点がマーケターには必要であり、MQL(Marketing Qualified Lead)の創出で満足してはいけない。
どのようなデータを見たいのかを明確にした上で、セグメントを設定することが肝心だ。例えばデータから自社の社員による閲覧分を除外せずに計測していたら、事の本質を見誤ってしまう。
また、セグメントは「社員アクセス除外+製品ページ閲覧+自動車業界の人」などと、欲張って複雑な条件を設定するよりも、個々の要素に分けてモジュール化した方が誰もが運用できて拡張性も高くなる。
そしてもう1つ。B2Bならではのポイントとなるのが、データを個人のプライベート属性ではなく企業データとひも付けることだ。セグメントといってもB2Cで一般的な性別や年代といったデータは、B2Bではそれほど価値がない。B2Bはあくまでも企業が対象であることを忘れてはならない。
B2Bでは、Amazonで本を買うように1セッションで購買が完結することは、まずない。長い場合は2、3カ月かけてコンバージョンすることもあるので、セッションまたぎのコンバージョンをきちんと計測する必要がある。扱う商材などによって一概には言えないものの関口氏の経験では、認知から購買まで短くて1週間、長くて3年、平均で14カ月くらいだそうだ。スピードと期間を考慮したアナリティクスが求められる。
統計は基本的に不要なものを排除してクリアにさせる。Webにはロングテールのデータが多いが、平均を求めると間違った読み方をしてしまうことがある。中央値や最頻値、標準偏差など、ケースバイケースで使い分けた方がいい。
「組織」「戦略」「文化」のうち、最も大切なのは文化だ。データを誰でも見られるようにしたい。アナリテイクスでは1つのチームがPDCAを回して成功したら他のチームにも共有し、小さな成功を全体に広げていくアプローチが望ましい。
Webサイトに優良なコンテンツがないとデジタルマーケティングは成り立たないので、コンテンツの貢献度はきちんと計測したい。
B2Bで気を付けたいのは、コンバージョンまで時間がかかることだ。製品デモやホワイトペーパーなどは短期でコンバージョンを引き出すが、ソリューション型コンテンツは長期的なコンバージョンに貢献する。短期と長期、両方を捉えて計測したい。
専門家は「こうであるはずだ」と経験でユーザーインタフェースを決めがちだが、それが常に正しいとは限らない。迷ったらA/Bテストを実施してみること。Webフォームの最適化では、どこでユーザーが間違えるか、どこで離脱したかを計測して改善する。
サブスクリプションモデルの台頭やAIへの取り組みなど経営環境が大きく変化している中で、Webアクセス解析をWebだけに閉じてはいけない。全体のデータ連携に留意し、最終的には経営判断にいかに使ってもらえるものにしたい。そのための仕組み作りが今後のマーケティング部門の役割になってくる。
Webアクセス解析の直接的な目的はマーケティング活用とCX改善に大別できる。MA(マーケティングオートメーション)ツールもアナリティクスツールと似た機能を持つが、両者が得意とするところは異なる。MAツールは個人を特定してすぐにメール送れるといったアクションを起こせるが、CX改善には不向きだ。
アナリティクスツールはWebサイト全体の最適化をはじめCX改善の目的に強い。マーケティング目的では検索ワードからユーザーのニーズを知るといった使い方ができる。
B2BのWebアクセス解析という視点からは、ツール選びにも幾つか欠かせない条件がある。Cookieの保持期間が90日しかないツールでは長期のコンバージョンを計測できないし、データを勝手にサンプリングされれば間違った平均値を出されてしまう可能性がある。コンバージョンのあったコンテンツを知る貢献度分析機能も欲しい。セグメントをモジュール化してAND条件で組み合わせる機能やセッションマタギのコンバージョン計測機能も必要だ。それらを備えたツールとして関口氏は「Adobe Analytics」を評価している。
最後に関口氏は、パナソニック創業者である松下幸之助氏の「日に新た」という言葉を紹介した。昔ながらのやり方をただ守っているだけではだめで、良いものを生みだすためには、これまで是とされたやり方でも改めるべきは改めていかなければならないという意味を持った言葉だ。これは毎日のPDCAサイクルを回さないといけないという意味にも捉えられる
「アナリティクスも同じこと。これが正解ということはないが、データを見ながら日々PDCAを回していくのが重要」と関口氏は結んだ。
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