人工知能「Adobe Sensei」は日本のデジタル広告市場をどう変えるのか目指すのは、ビジネスKPIに則した広告配信の全体最適化(1/2 ページ)

「Adobe Advertising Cloud」の事業責任者に広告業界で経験豊富なエキスパートが就任。日本市場でいよいよ本格展開するAdobeの広告プラットフォームは企業のどのような課題を解決するのか。

» 2019年06月13日 07時00分 公開
[水落絵理香ITmedia マーケティング]

 「世界を変えるデジタル体験を」というミッションを掲げるAdobe(以下、アドビ)は、「Adobe Creative Cloud」「Adobe Document Cloud」「Adobe Experience Cloud」という3つのクラウドプラットフォームを提供する。その中でも顧客体験に関わるサービスを提供するのが「Adobe Experience Cloud」で、そこにマーケティングプラットフォームの「Adobe Marketing Cloud」、分析プラットフォームの「Adobe Analytics Cloud」「Magento Commerce」を基盤とするコマースプラットフォーム「Adobe Commerce Cloud」そして、2017年から提供している広告運用管理プラットフォーム「Adobe Advertising Cloud」が連なる。

 アドビの広告ソリューションといっても、日本ではまだなじみが薄い。しかし、AI(人工知能)と機械学習のフレームワークである「Adobe Sensei」を搭載し、他のアドビ製品と深いレベルで連携可能な点は、あらゆるメディアにおいてプログラマティックな取引を実現する上で、大きなアドバンテージとなるだろう。

 アドビの日本法人は2019年2月、Adobe Advertising Cloudの日本での展開を推進するため、博報堂出身でアマゾンジャパンやmedibaで広告事業の統括を経験してきた竹嶋拓也氏を担当執行役員として迎えている。

 広告配信の全体最適化という課題にアドビが挑む理由とAdobe Advertising Cloudの強みについて、5月28〜30日に都内で開催されたマーケティングやコミュニケーション業界の祭典「Advertising Week Asia」に登壇した竹嶋氏に聞いた。

アドビ システムズ アドバタイジング クラウド統括本部 執行役員 竹嶋拓也氏

TCPAを指標に広告運用が可能なプラットフォーム

――Adobe Advertising Cloudについて概要を教えてください。

竹嶋氏 Adobe Advertising Cloudは、メディア横断であらゆる広告のデータやクリエイティブを統合的に管理し、配信の最適化・自動化を実現するプラットフォームです。

 Adobe Advertising Cloudは「DSP」「サーチ」「テレビ」「クリエイティブ管理」の4要素で構成されています。現状、日本で提供されているのはDSPと検索の2つです。

 DSPはさまざまな配信形態に対応可能で、特に動画領域で活用する企業が多いです。検索はAIによりSEM(検索エンジンマーケティング)の自動最適化を実現します。そして2019年秋の提供開始に向けて日本で準備を進めているのが、クリエイティブマネジメントツールの「Adobe Advertising Cloud Creative」です。

――広告配信の最適化は多くの広告主の課題であり、自動最適化をうたったツールも多く市場に出ています。Adobe Advertising Cloudの競合他社製品に対する優位性はどこにあるのでしょう。

竹嶋氏 特定のメディアとの利害関係に縛られない独立性やデータの透明性といったところも大きな特徴ですが、最適化という観点で特筆すべき点を一つ挙げると、ミッドファネルの広告配信における精度の高さです。

 Adobe Analytics Cloudの分析ツール「Adobe Analytics」やプライベートDMP「Adobe Audience Manager」と連携させることで、広告が人の目にとまってからコンバージョンに至るまでの中間のアクションを計測し、さらにコンバージョン手前にいる潜在顧客の属性を細かく捕捉できます。例えば、自社のオウンドメディアにおいて来訪ユーザーの滞在時間が平均10分だとします。そこで15分以上滞在しているけどまだコンバージョンに至っていない人というのは、かなりコンバージョンする可能性が高い。そこで、そうしたユーザーのみを狙って背中の一押しをするようにピンポイントでの広告配信が可能になります。

――ミッドファネルエリアでそこまで細かく広告配信設定できるサービスはほとんどないでしょうね。

竹嶋氏 機能的な優位性はミッドファネルにありますが、Adobe Advertising Cloudそのものは、マーケティングファネル全体を網羅し、ファネルの幅を広げるところからコンバージョンに落とし込んでいくところまでを一気通貫で行える強みを持っています。

 フルファネルを網羅することで、施策単位の成果ではなく、TCPA(間接効果を含めたトータルな獲得単価)で判断できる環境を構築できるのです。日本ではコンバージョン直前のラストクリックだけしか見ていない企業がまだまだ多く、ビュースルーやアトリビューションの評価が普及していないので、TCPAの概念そのものの啓蒙から始めていかなければいけないと感じておりますし、ビジネスKPIを達成するために意味を持つTCPAで判断する必要性を訴え続けなければならないと考えております。

ユーザー企業がAdobe Advertising Cloudに期待すること

――日本で既にAdobe Advertising Cloudを導入されているのは、既に全体最適化の重要性に気づいている企業が多いのでしょうか。

竹嶋氏 そうですね。新規顧客からの売り上げやLTVなど、自分たちが本来追うべきビジネスKPIを達成するために、果たしてCPC(クリック単価)だけを最適化するのは正解なのかと疑問を持たれ、ご相談いただくことがよくあります。

 また、一つのブランドで一気通貫に広告配信ができるという期待からお声掛けいただくこともあります。

 実際にビュースルーやアトリビューションを計測しようとしても、複数社のツールを使わなければいけないとなると、どうしても「分断」が起きてしまいます。コンバージョンに至るまでの履歴を追いきれず、最終的に得られるオーディエンスデータに欠損が出てしまうのです。欠損したデータを基にPDCAを回して広告最適化ができるかというと、イエスとは言い切れませんよね。

 Adobe Advertising Cloudであればエンドツーエンドのキャンペーン管理ができるので、データ欠損を防ぎ、より正確に顧客動向を把握した上で、広告のパフォーマンスを向上できるというわけです。

――どのような業態で多く使われているのでしょうか。

竹嶋氏 検索管理の「Adobe Advertising Cloud Search」は、リスティング広告に投資する必要のある、大規模ECサイトを運用している企業に特に多くご利用いただいています。

 「Adobe Advertising Cloud DSP」は2016年に買収したTubeMogulの動画DSPが基になっているので、お客さまも動画に予算を割いている企業が中心ですね。特にブランディング目的で動画を運用されているところです。業種的には航空会社や自動車会社が多いです。

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