「AIエージェント」はデジタルマーケティングをどう高度化するのか電通デジタル「∞AI」の大型アップデートを実施

電通デジタルはAIを活用したマーケティングソリューションブランド「∞AI」の大型アップデートを実施し、デジタルマーケティングにおけるAIエージェントとして社内で本格運用を開始した。

» 2025年03月31日 15時00分 公開
[織茂洋介ITmedia マーケティング]

 ユーザーの要望に対して何をすべきかを自律的に判断して最適な形でタスクを実行する「AIエージェント」がデジタルマーケティングの在り方を変えようとしている。

 電通デジタルは2025年3月24日、AIを活用したマーケティングソリューションブランド「∞AI」(ムゲンエーアイ)に、AIエージェント技術を導入する大型アップデートを発表した。本稿では、同日に行われた記者向けの説明会の内容を基に、∞AIの全体像とこの領域におけるAIエージェント活用の可能性について整理する。

AIエージェント時代のデジタルマーケティングはこれまでとどう違う?

 ∞AIはもともと2022年12月、運用型広告における広告クリエイティブ制作支援サービスとして誕生した。これが2023年10月に、次世代マーケティングを統合的に支援するソリューションブランドとして生まれ変わり、「∞AI Ads」「∞AI Chat」「∞AI Contents」という3つのAIアプリケーションとそれらの基盤となるプラットフォーム「∞AI Marketing Hub」が発表された。

 ∞AI Ads(旧∞AI)は、「訴求軸発見」「クリエイティブ生成」「効果予測」「改善サジェスト」といった役割を担ったAI同士が連携し、バナー広告や検索連動型広告の改善に寄与する。∞AI Chatは、企業が保有するファーストパーティーデータを活用してユーザーへのパーソナライズ対応を可能にする対話型AI開発を支援する。2025年3月には会話ログを視覚的に表現して分析する「ナレッジグラフ」と対話データからプロファイルを生成する「顧客カルテ」機能を実装している。∞AI Contentsは、AI活用によるバーチャルヒューマンやオウンドメディア構築など、ユーザーエンゲージメントを高めるサービスを提供する。∞AI Marketing Hubは多様なデータを一元管理・分析して各AIソリューションが使いやすい形にするための基盤となる。

∞AIブラランドの全体像(画像提供:電通デジタル)

 今回、機能面で大きく変わったのが、∞AI Marketing Hubと∞AI Adsだ。

 まず、∞AI Marketing Hubに新たに「∞AI Customer Data Hub」「∞AI Customer Twin」「∞AI MC Planning」「∞AI CX Planning」の4つのサブプロダクトが追加された。

AIエージェントに適したデータの整備

 電通デジタルでは、対話型のレコメントやお悩み相談、それらの会話を推進するためのキャラクター生成など、生成AIならではのさまざまな体験を提供している。そこで蓄積されたデータは、これまでよりもはるかに多くのユーザーインサイトを含む。Webサイトを訪問したという事実だけでは、その人の本当の興味は分からないが、実際に会話をすることで、商品・サービスに何を求めているのか、今まさに購入を検討しているのか否かを捉えることができるからだ。

 「∞AI Customer Data Hub」は、∞AI Chatや∞AI Contentsから得られたデータに加え、企業が保有するファーストパーティーデータ、電通デジタルの各種マーケティングデータなどを自動的に統合・構造化して、顧客一人一人のカルテをリアルタイムで生成する。

 ∞AI Customer Data Hub上のデータを基に、顧客一人一人の心理・行動特性を忠実に再現した仮想顧客AI(カスタマーツイン)を生成するのが「∞AI Customer Twin」だ。統合されたデータに基づき作り出されたカスタマーツインと対話することで、あたかもデプスインタビューのように顧客像を深掘りすることが可能になる。また、対話するカスタマーツインの数を増やせば、定量調査も可能になる。

デジタルマーケティングのエージェント化

 AIエージェントを通じてデジタルマーケティングを対話化するのが「∞AI MC Planning」と「∞AI CX Planning」だ。前者は広告配信におけるメディアプランニング、広告コピーの企画・効果予測などのマーケティングコミュニケーション(MC)施策における一連のプロセス対話形式で実現する。後者は顧客体験(CX)の改善を目的としたもので、カスタマージャーニー設計やUIのテスト、新規事業および既存事業高度化のアイデア創出などを支援する。裏側のAIはマルチモーダル、すなわちテキストだけでなく画像などさまざまなデータを学習可能なので、Webサイトのデザインを見せて「このサイトの悪いところがあったら直してください」といった質問も可能だ。

広告の運用プロセスも対話化

 以上はプランニングの話だが、∞AI AdsにAIエージェント機能を追加することで、その先のエグゼキューション、つまり実際に配信する広告を制作するプロセスも対話化する。∞AI Adsは「訴求軸の発見」「クリエイティブの生成」「広告効果予測」「改善サジェスト」は4つの機能から成るが、対話化されるのはこのうちクリエイティブ生成以降のプロセスだ。

 クリエイティブの生成においては、例えばバナーをアップロードして、どうしてほしいかをテキストで指示するだけで、訴求軸に沿った(かつ広告主ごとのレギュレーションを詳細に反映した)最適なクリエイティブを簡単に生成できる。

 もちろん何が最適かは配信先によって異なる。そこで、グループを設定した上で広告効果予測や改善サジェストをもらうことができる。ゴルフ情報サイト「ゴルフダイジェスト・オンライン」が実施したテストでは、テキスト指示での広告効果予測と改善サジェストにより、バナー広告のインプレッションが255%、クリック率が144%と、配信ボリュームを増やしつつパフォーマンスも高めることに成功した。なお、企画から配信までの時間は通常約2カ月程度かかるが、このケースでは5営業日に短縮できたという。一連の対話は「Slack」などのツールに統合して使うことも可能だ。

「マルチエージェントコラボレーション」の時代へ

 今回の発表に至るまで、電通デジタルは通信会社や嗜好品メーカーなど、さまざまな領域の企業と実証実験を進めてきたという。

 同社CAIO(Chief AI Officer:最高AI責任者)兼執行役員の山本覚氏は「今回、成果が出せる形で自信を持ってリリースできた。デジタルマーケティングに長く向き合ってきたわれわれのフレームワークを、AIエージェントを通じて対話形式で提供することで、最初から高いパフォーマンスを出すことが可能になっている」と語る。また、電通デジタルが持つこの他の強みとして山本氏は、AI企業やプラットフォーマーとの強固な連携と豊富なデータ基盤を挙げた。

電通デジタルの山本覚氏

 「今後は電通グループのさまざまなAIエージェント、さらにはクライアントやパートナーが提供するAIエージェントとの『マルチエージェントコラボレーション』が実現する。そうなれば人間がデータを直接触る機会はますます減ってくる。マーケターは今まで以上に『人間の心に向き合っていくこと』が求められる」(山本氏)

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