カプコンの「バイオハザード」、ロングセラー商品のリブランディングは「傾聴」から始まったユーザーの思いを引き出す「コグニティブインタビュー」(1/2 ページ)

ブランドが変わらぬ価値を提供しているつもりでも、ブランドを取り巻く環境は変わる。顧客が求める価値と自社が提供している価値は同じなのか。インサイトを確認するためカプコンが選んだ手法とは。

» 2019年07月08日 07時00分 公開
[水落絵理香ITmedia マーケティング]

 カプコンは、「ストリートファイター」や「モンスターハンター」「ロックマン」など世界的大ヒット作品をいくつも世に送り出してきた有名ゲームソフトメーカーだ。

 同社の作品の中でも「バイオハザード」シリーズは人気が高い。1996年に第1作が発売されて以降、サバイバルホラーゲームの金字塔となった「バイオハザード」を筆頭に、販売本数はシリーズ累計約9100万本(2019年3月31日時点)にものぼる。

 長い年月が経過した今でも熱烈に支持されている同シリーズだが、カプコン社内では近年、課題も感じているという。新規ユーザーの伸び率が低くなっていたのだ。

若年層にとっての「バイオハザード」はゲームではなく映画

 かつてゲームといえば、ゲームセンターに据え置かれているアーケードゲームか家庭用ゲーム機のいずれかでプレイするものだった。しかし今はスマートフォンやAR/VRなどゲームのプラットフォームが多様化している。

 「エンターテインメントの多様化が進む中で、その中の1ジャンルであるゲームも無数に枝分かれしています。特にモバイルゲームが普及したことで、ゲームに対する価値観が変わってきたと思います」と語るのは、カプコンCS第一開発統括第一編成部プロデューサーの大谷 剛氏だ。

 スマートフォンのゲームアプリの場合、重視されるのは「気軽さ」や「コミュニティー」であり、昔ながらのゲーマーが求めるものとは評価基準が異なってきている。ゲームセンターで対戦に明け暮れたり、家の中で寝食を忘れプレイに熱中したりすることだけがゲームの楽しみ方ではなくなってきている。

 しかし、ユーザーの変化というのはメーカーの側からは意外と見えにくいもののようだ。カプコン技術研究開発部通信技術室サービス基盤チームチーム長の高野和之氏は「当社のファンはマニアックなゲーマーが多いので、良くも悪くもそこだけを観察していると市場を見誤ると感じています。どちらかというと、競合他社やパートナー企業の動きを通じて変化を実感する機会が多い」と述べる。そして実際、自社ユーザーだけでなく競合他社の動きも含めて市場を冷静に観察すると、若年層へのアプローチ不足が気になってきたというのだ。特に衝撃的な発見は、次の発言に表れている。

 「若年層と話していると、『バイオハザード』を映画と認識している方が多い。『テーマパークのアトラクションでしょ?』と答える方さえいる。20代前半ぐらいだと、『バイオハザード』というブランド自体は認知しているものの、必ずしもゲーム発のコンテンツだとは捉えられていない」(大谷氏)

高野 和之氏(左)と大谷 剛氏(右)

コアユーザーの思考を深掘りするコグニティブインタビュー

 それでも「バイオハザード」のブランド認知はまだまだ高い。だから、そのポテンシャルは生かしたい。モバイルゲーム市場が成長したことによりゲームユーザーの裾野も広がっている。若年層にリーチできる余地は大いにある。

 とはいえ、新規ユーザー獲得を目的にプロモーション活動を行うにしても、プロダクトの魅力が伝わらなければ意味がない。ユーザーの心をつかむプロダクトを作れるかどうかは、全ての鍵になる。まずは現状を一つ一つ整理した上で、足元を固めることが重要だ。

 「ユーザーと作り手が共に紡いできた歴史の中で、あらためてブランドのコアバリューを理解する必要があると感じました。時代が変わっても愛されている部分を見いだすことができれば、そこを柱にしてさまざまな戦略を練られます」と高野氏は語る。

 そこで、コアバリューを引き出すために採用したサービスが、大手調査会社のインテージが提供するコグニティブインタビュー「Brand Experience」だ。コグニティブインタビューは認知心理学の理論に基づき 記憶の再生を最大化させるための調査手法で、米国の警察が事件や事故の目撃者を尋問する際に正確な証言をできるだけ多く引き出すために用いたメソッドにルーツがある。事件に直接関係ないような部分も含めて事件前後の記憶をありのまま話してもらうことで、より正確で多くの情報を引き出すことができるのだ。

 「Brand Experience」においては、対象者のブランドにまつわる体験について、直接のテーマに関係あるかないかにかかわらず思い出したことを全て語ってもらう。インタビューは一人当たり90分以上をかけて行い、ブランド体験の話を、聞き方を変えて3回聴取する。対象者のペースで語ってもらい、対象者の言葉をそのまま受け止めることで、エピソードの一つ一つを前後の文脈から、より広く深く理解する。

文脈で聞くとはどういうことか?(出典:インテージ)

 今回カプコンが実施したコグニティブインタビューでは、「バイオハザード」のコアファンを集め、それぞれの「バイオハザード」にまつわるエピソードをひたすら語ってもらった。自分と作品の歴史を語ってもらうことで、何に対して興味を持っているのか、どのような価値を感じているのかを見極めた。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.