JTBのData Science Central(DSC)が進める「データドリブン」と「マーケットイン」という2軸の取り組みについて話を聞いた。
OTA(Online Travel Agency)と呼ばれるオンライン専門の旅行業者が台頭するなど、旅行業界はデジタル変革が急速に進む。その流れは国内最大手旅行会社であるJTBにおいても待ったなしだ。
だが、顧客と店頭での対面コミュニケーションに重きを置き、パッケージツアーを軸に多彩な商品を販売する同社にとって、旅行業界のWeb販売でよくある「安いチケットを探す消費者に対してニーズに合った広告を当てて効率よくコンバージョンを促す」だけのマーケティング施策では十分とはいえない。では、何を目指すのか。JTBのデジタル戦略を主導するチームに聞いた。
JTB社内でデータドリブンマーケティングを実践するData Science Central(DSC)は2018年4月に発足した戦略的組織で、インフラである統合データ基盤の構築と整備、顧客分析、コミュニケーションやシナリオプランニングを実行するマーケティングアクションという3つの機能ごとのチームに分かれている。
顧客起点で最適なマーケティングアクションを実行するには、顧客データから旅行目的や購買動機を分析することが重要で、そのためのインフラが必要になる。外部の事業者に任せきりにせず自力でPDCAサイクルを回すための組織構造を備えているのがDSCの特徴だ。統合データ基盤チームはID統合済みのデータを顧客分析チームに供給し、顧客分析チームで発見した知見はマーケティングアクションチームに渡される。マーケティングアクションチームは知見を基に顧客とのコミュニケーションを行う。その結果は再び統合データ基盤チームに戻ってくるという流れになっている。
「われわれの業界ではPDCAをぐるぐると回し続けることが重要。例えば子どもは2歳まで航空運賃がかからないので、子どもを持った若い夫婦にとってその時期は海外旅行を考えるゴールデンタイム。DSCでは自社内でインフラを構えて日々データをアップデートし、データからその目的や購買動機を解釈することで、期間の限られたニーズも逃さずに発見できる」。そう語るのは、JTB Web販売部戦略部長でDSCを統括する福田晃仁氏だ。
データドリブンマーケティングと並ぶもう1つの重要課題が「プロダクトアウトからマーケットインへの転換」だ。これまでのJTBのビジネスモデルは主に、商品をパッケージ化してツアーとして販売する「プロダクトアウト」型であった。しかし最近の旅行業界では、OTAを中心に顧客が航空券やホテルを自由に組み合わせるダイナミックパッケージが台頭している。
そこで、顧客の購買動機を探るためのエビデンスをデータに求めようというわけだが、そのためにはマーケットインに適したインフラが必要になる。「実績データ」「会員データ」などの自社データと外部データ、タグデータをプライベートDMP(Arm Treasure Data eCDP)に集約し、顧客を分析できるようにしたのは、このような背景もあってのことだ。
福田氏らは、このインフラを使って「量的分析」と「質的分析」の両方を進めている。量的分析とは、JTBの約1500万人の顧客データベースから特定セグメントにいるターゲットを自動で抽出するために方程式を磨いていくような合理性重視の分析である。これに対して質的分析とは、データの向こう側にある顧客の購買心理や買う理由を見つける探索型の分析だ。
例えば一口にハワイへの旅行者といっても、ワイキキ周辺とアラモアナショッピングセンターが主な行動範囲であるAさんと、島の反対側のノースショアまで足を伸ばすBさんではニーズが異なる。
Webマーケティングの観点からいえば、全員に同じページを見せるよりも、ハワイに対する顧客評価から「玄人度」を考慮してコンテンツを出し分けた方が、効果は高いと想定できる。Aさんはホテルもオーシャンビューの部屋でなければ満足しないだろうが、旅慣れたBさんはオーシャンビューのホテルよりも、現地の人と交流できるレストランを求めるかもしれない。
肝心の玄人度をどう測るかという問題もある。単純にデモグラフィックデータを基にコミュニケーションを取るわけにはいかない。50代の初心者もいれば、20代の玄人もいるからだ。属性情報に頼らず複層的なデータに基づく分析、文脈を読み解きインサイトを得る分析をDSCは重視している。
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