統計学ブームに火を付けた西内 啓氏が、「エビデンス」に基づく意思決定の重要性について語った
2018年12月6日、データビークルは「データが価値に変わるその瞬間、企業では何が起きていたのか?」をテーマに、初めての自社カンファレンス「Tokyo Data Science Lab 2018」を開催した。基調講演には、同社の代表取締役の一人でありベストセラーとなった『統計学が最強の学問である』(ダイヤモンド社)の著者として知られる西内 啓氏が登壇。ビジネスの意思決定の場面における「エビデンス」の重要性について語った。
エビデンス、すなわち科学的根拠に基づく意思決定が、さまざまな分野で求められるようになっている。昨今は行政の分野でもEBPM(Evidence Based Policy Making:証拠に基づく政策立案)という概念が広まりつつあるが、この「Evidence Based」という言葉が最初に生まれたのは医療分野であるという。
従来、患者の治療法は個々の医師の勘と経験で決められていた。これを、根拠のあるデータに基づき、有効と認められたものだけを選択しようという考え方を、1991年にカナダのゴードン・ガイアット博士が提唱した。EBM(Evidence Based Medicine)と呼ばれるこの概念は、医療の枠を超え、政治に教育にビジネスに、瞬く間に広がった。
エビデンスが威力を発揮するのは、難しい意思決定を下す場面である。しかし、一口にエビデンスといっても、簡単に反論ができるものもあれば、信頼性が非常に高いものまで多岐にわたる。さまざまなレベルのエビデンスを、信頼性が低いものから順に階層化して整理したのが、以下の「エビデンスピラミッド」である。
エビデンスピラミッドは次の5階層から成る。
「誰かがそう言った」「一般的にこういわれている」というのは、意思決定の基礎となるものだが、根拠としては弱い。それよりは「実際にこういうことがあった」という事例が欲しいところだ。だが、事例も数が少なかったり正反対の事例が散見されたりすれば説得力に欠ける。そこで、本領を発揮するのがデータ分析だ。できるだけデータを集め、P値(誤差や偶然によってたまたま差が生じる確率)が大きい変数を除いた上で多変量解析を行うなどして条件をまとめて整理する。そうすることで公平な比較ができるようにするのだ。
しかし例えば「ボーナスを出すと、働く人の生産性は向上する」という仮説を証明しようとするとき、ボーナスを出すことと生産性が連動していることが分かったとして、ボーナスを出すから生産性が上がったのか、生産性の高い人だからボーナスがもらえたのか、因果が逆である可能性もある。また、生産性が上がったのはボーナスのおかげではなく、測定されていなかった隠れた関係因子があるかもしれない。
そこで、エビデンスをより強いものにするために行われるのがランダム化比較実験だ。マーケターには「A/Bテスト」といった方がなじみ深いだろう。対象者が偏った属性にならないように2つのグループに分け、オプションの有無で結果がどう変わるかを比較するのだ。ボーナスと生産性の例でいえば、ボーナスを提供したグループと提供しないグループでパフォーマンスにどれだけ差が出るかを比較することになる。ただし、このやり方にも限界がある。条件の異なる他のグループで同じテストをしても、同じ結果が再現できることは保証できないからだ。
エビデンスとしてさらに強いのは、過去の調査やランダム比較実験の結果を集めてきて、それらをトータルで分析することだ。メタアナリシスとは、分析結果に対する分析という意味。先行研究の結果を記した文献をできるだけたくさん集め、全部を分析することで、全体として一番強いトレンドが分かる。ちなみに、金銭的なボーナスを支給すると働く人の生産性が向上することは、先行研究で実証されているという。
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