30年にわたりIT系B2B企業のマーケティング支援に携わってきたエキスパートが、マーケティング中心の経営を実践するB2B企業を訪ね、そのチャレンジについて聞く。
マーケティングに必要なスキルといえば、企画力や発想力、そして感性などを挙げる人も多いだろう。しかしマーケティング本来の目的は、売り上げやビジネスの発展に貢献すること。そういう意味では、マーケターには「面白いこと」をする力より、まず数字に対する感度が求められるといえる。
今回訪問したのは、Dropbox Japanで「英語と数字、ロジック、情熱」を共通言語とし、マーケターとして活躍されている植山周志氏だ。Dropboxがクラウドストレージからコラボレーションプラットフォームへと進化する中、植山氏はどのような手段でビジネスの成長に貢献しているのか。そのマーケティング哲学について聞いた。
Dropboxでグロースマーケティングの任に当たる植山周志氏は、数字をベースにフォーカスすべき範囲を決め、企画とスケジュールを立てて実行し、成果を上げてきた凄腕マーケターだ。その知見をまとめた著書『数字思考力×Excelでマーケティングの成果を上げる本』(翔泳社)も出版している。
その一方、ご自身のブログ「植山周志のぶっ飛びブログ」(http://www.shoe-g.com/)では、石こうボード壁の穴をきれいにする方法や、雨の日の自転車通勤ノウハウを熱く語るなど、多才なマルチクリエイターでもある。
そのような不思議な魅力にあふれている植山氏の話を伺いたいと思ったのは、先述の著書の中に「Win-Winではなくハッピーな関係を築いていきたい」ということが書かれていたからだ。
実は当社ビッグビートも、「関わった人すべてがHappyを感じる」という理念を掲げている。Win-Winだとどこかに負ける人がいるが、ハッピーという言葉には勝ちも負けがない。ただ幸せがあるだけだ。こういう言葉の遣い方や選び方に、勝手ながら非常に親近感を覚えた。
植山氏が所属するDropboxは、創業11年になるネットサービス企業だ。クラウドストレージサービスとして出発した同社は、現在ではコラボレーションプラットフォームサービスの会社として進化を続けている。ユーザーは全世界で5億人。企業・組織でDropboxを契約している数は30万チームに上る。ユーザー比率は米国をはじめとする英語圏が最も高いが、日本市場もこれから一層の成長が期待されている。
植山氏のミッションは「米国以外の市場の成長」だ。この実現に向け、植山氏は、日本はもちろんアジアや非英語圏の市場拡大に取り組んでいる。戦略を考えるベースとなるのは、もちろん数字だ。
「僕が所属するGrowth & Monetizationという部署は皆数字オタクなので、データや分析が大好きなのです。社内では、大枠のデータはBIツールのダッシュボードがあるので、そこで見ることができます。とても深い分析をしたい場合は、Hadoop上で動く『Hive』というデータウェアハウスがあるので、SQLを書いてそこから分析用のデータを取得することができます。とても恵まれたデータ環境にいますね。僕のチームはデータ好きが多いので、喜々としてSQLを書いています」と植山氏はいう。
SQLを書いてデータを抽出し、マーケティングファネルにのっとってデータを分布させ、CSVからMiclosoft Excelに落とす。そんな業務が普通に行われている。施策を考えるときも、もちろん数字が基本だ。2017年に無料会員を有料会員に引き上げるため行ったランディングページの改善施策では、無料ユーザーのアップグレードの可能性をデータサイエンティストが定量化し、そのスコアを使ってセグメントを作り、そのセグメントごとにコピーライティングのA/Bテストを実施した。その結果、コンバージョン率(CVR)が125%向上したそうだ。この成功を世界に展開すべく、アジア圏で中国語、韓国語、英語でもA/Bテストを実施し、同様の改善に取り組んでいる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.