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» 2020年03月05日 12時00分 公開

メディアとPRのプロが語る:なぜ広告は炎上するのか ダイバーシティ(多様性)とSNSの時代の企業コミュニケーション (1/2)

多様性とSNSの時代、企業が情報発信において留意すべきことは何か。メディアとPR(パブリックリレーションズ)のエキスパートが語り合った。

[高橋ちさ,ITmedia マーケティング]

 企業による情報発信の背後には、自社や自社の製品を生活者に好きになってもらいたいという思いがある。SNSが生活者との重要な接点となった今日においては、SNSで共感を育み、企業にとってポジティブな評判が生まれるようにしたいところだ。

 しかし、レピュテーション(評判)は基本的にコントロールできないものだ。企業都合で宣伝メッセージを並べ立てるだけでは、受け取る側は白けてしまう。また、良かれと思って提供したコンテンツが受け取る側の価値観と相いれず、思わぬ反発を招き「炎上」につながる残念な事例も目立つようになってきている。

 生活者の多様性を理解し、一方的な価値観の押し付けをしないために企業は何に留意すればいいのか。本稿では2019年11月に開催された「WOMJクチコミフェスタ2019」におけるメディアジーン執行役員『MASHING UP』編集長の遠藤祐子氏とPR会社ビルコムで統合プランニング局部長を務める茅野祐子氏のトークセッションで語られたポイントを紹介する。

「多様性」が重要視されるようになった背景

 世界的に想定外の事象が次々と発生する今日は「VUCAの時代」と呼ばれることがある。「VUCA」とは、

  • Volatility(変動)
  • Uncertainty(不確実)
  • Complexity(複雑)
  • Ambiguity(曖昧)

の頭文字をつなぎ合わせた造語で、これら4つの要因により、現在の社会経済環境が極めて予測困難な状況に直面しているという時代認識を表している。VUCAはもともと冷戦終結後の米国で複雑化した国際情勢を形容する軍事用語として生まれ、ダボス会議などを通じて経営やマネジメントの文脈においても使われるようになった。

 日本でVUCAが語られるようになった理由の一つには、急激に進む少子高齢化という課題がある。生産年齢人口の減少から国や企業はようやく重い腰を上げ、女性の活躍を推進しようという空気ができてきた。今後も経済的な成長を持続させようとするのであれば、外国人や高齢者、さらに多種多様な人々の社会参加が必要になってくるのは言うまでもない。

 遠藤氏が編集長を務める『MASHING UP』は、女性目線でダイバーシティ(多様性)を考えるメディアだ。2019年は「Reshape 視点を変えよう」を通年のテーマとし、7月に「パートナーシップ」について考える特集を企画した。

 この特集の取材を経験し、遠藤氏は「一家の大黒柱である女性編集者と主夫、子育てをする外国人と日本人男性のゲイカップル、別居している夫婦、結婚し離婚して現在は事実婚しているカップルなど、私たちが想像する以上に幸せの形は違っていて、多様性に満ちている」と感じた。そして、偏見を取り払い取材対象への公平な姿勢とリスペクトを持って取材に当たることの大切さをあらためて知ったという。

メディアジーン執行役員『MASHING UP』編集長の遠藤祐子氏

多様性時代のコーポレートコミュニケーション

 PR会社の立場で顧客企業のコーポレートコミュニケーションに日々関わっている茅野氏は遠藤氏に同意し、「リスペクトとフェアネスは企業のコミュニケーションにおいても最重要」と語る。情報を発信する上では、受け取る側にさまざまな立場があることを理解して、表現などに配慮する姿勢が必要だというのだ。

 茅野氏は、多様性の時代において「リスク対応」の中身も変わってきていると指摘する。特に無視できないのがSNSの存在だ。

 2019年、某化学メーカーに務める社員の妻が、夫が育休取得直後に転勤を命じられて有給休暇も取らせてもらえず退職に追い込まれたということをTwitterで告発し、大きな反響を呼んだ。企業側が法的に問題がない旨の公式なコメントを発信するとネット炎上はさらに拡大した。一連の騒動を受けて企業の株価も大きく下落し、SNSの影響が金銭的なダメージに直結することを知らしめる事例にもなったといえる。

 茅野氏はこの件を例に、「今の時代、生活者に共感を得られるか、多様な価値観に対応しているのかを意識しなければいけない」と語る。この企業の対応は法律的には間違っていないのかもしれない。しかし、「正しいけれど弱者を切り捨てる」企業が愛されることはないだろう。

 メディアといえば4マス(テレビ、新聞、ラジオ、雑誌)しかなかった時代であれば、これらで報道されない限り、私たちは新たな価値観に接する機会がなかった。しかし、SNS時代は生活者の反感がダイレクトに可視化される。評判コントロールの難しさは過去とは比較にならない。

ビルコム統合プランニング局部長の茅野祐子氏
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