「Adobe Symposium 2019」にfreeeとラクスルのCMOが登壇。成長企業におけるCMOの役割をテーマに議論を展開した。
自社の持つユニークな製品・サービスを見込み客の潜在ニーズに結び付けて顧客化し、新たな市場を作る。そして、その市場をさらに拡大させる――。スタートアップ企業が急成長を遂げる上でマーケティングは欠かせない機能だ。
経営資源(ヒト・モノ・カネ)が必ずしも十分でない中、戦略を立案し個々のマーケティング施策を進める上では司令塔の役割が重要だ。そして、それを担うのがCMO(最高マーケティング責任者)だ。
2019年7月24日に開催されたアドビ システムズの年次イベント「Adobe Symposium 2019」では、freee執行役員CMOの川西康之氏とラクスル取締役CMOの田部正樹氏を招いてパネルディスカッションを実施。アドビ システムズ執行役員マルケト事業担当の小関貴志氏がモデレーターを務め、成長企業におけるCMOの役割について語り合った。
SaaS型のクラウド会計ソフトを提供するfreeeは、米国の調査会社CB Insightsが「世界のフィンテック250社」に選出した日本を代表する急成長スタートアップ企業だ。一方のラクスルは、印刷から始まり物流や広告のシェアリングプラットフォームを提供するB2B企業で、日本ベンチャー大賞「経済産業大臣賞」を受賞している。2018年5月に東京証券取引所マザーズ上場を果たした。
川西氏と田部氏はそれぞれ自社の黎明期からマーケティングをけん引してきた。パネルディスカッションは両CMOが自身の役割をどう捉えているのかという質問から始まった。最初に答えた田部氏はまず、マーケティングを「売れる仕組み」とした上で次のように語った。
「マーケティング=プロモーションと定義している企業が多いのですが、どれだけ良い商品を開発してもターゲットに知ってもらえなければ売れないし、逆に商品が悪いとどれだけ認知を獲得できても売れない。プロモーションはあくまで一部の機能にすぎず、本来はもっと他部門と横串で捉えるべきです」(田部氏)
マーケティングが売れる仕組みを意味するのであれば、マーケターは、売れる商品と売るための流通経路を作り出さなければならない。これは組織の壁を越えた取り組みとなる。しかし、時に利害の異なる各部門を統率するのは、一介の社員には難しい。だからこそ、全社横断で一定の権限を持つCMOが必要となる。
売れる仕組み作りを担うのだから、CMOが責任を負うべき指標は当然売り上げということになる。ただし、単に短期的な売り上げ目標を追うというよりは、中長期的に事業価値を伸ばしていくための施策も考えなければならない。
全社を巻き込みつつ中長期の売り上げにコミットするという点では、その役割はもはやCEOにも近い。CEOとCMOにはどのような違いがあるのか。田部氏は以下のように答えた。
「CEOのキャラクターによってすみ分けは変わると思いますが、ほとんどの場合において、創業者は事業創造に秀でています。やはりCEOにはそこに一番リソースを割いてほしい。ラクスルではCEOには新規事業に集中してもらい、既存事業の成長はCMOの私が担うという座組みを取っています」(田部氏)
CMOを設けていない企業では、これらの役割を全てCEOが担っている場合がほとんどだろう。CEOとCMOがそれぞれの役割に集中することで、企業全体の成長スピードを上げることができるのだ。CEOとCMOの役割分担については川西氏のfreeeの場合もほとんど同じだそうだ。
「各事業部を統括して、直近のPL(損益)を見るのがCMOの役割。当社の場合は3〜5年後の未来のプロダクト構築はCEOに任せていて、CMOは直近1年間の売り上げにコミットしています」(川西氏)
モデレーターの小関氏も、CMOが売り上げ責任を持つという意味でCEOと近い存在であることに同意した。小関氏自身は長く営業に従事していたが、旧マルケトでCMOとしてマーケティングを担当するようになった(米国本社の買収に伴い2019年3月にアドビ システムズに統合)。小関氏は、試行錯誤する中でマーケティングとは何かを突き詰めていくと、1つのシンプルな結論にたどり着いたという。それは「数字を達成し、顧客に価値を提供していくという点では、これまで自分がやってきた営業と一緒」ということだ。
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