ビジネスを成功させるにはまずKPIの上手な設計から。今回は、Webサイト運用において陥りやすい誤解とその対処法について解説します。
前回「誤解されたCPA――Web広告とKPI その1」では、Web広告におけるKPIについて、主に何を目的つまりコンバージョン(CV)として捉えるべきかを述べました。
売り上げをCVとするECサイトや会員登録などをCVとするリードジェネレーションサイトの運用担当者からすると、「うちのCVは分かりやすいから、KPIについて悩む必要なんてない」「CPA(顧客獲得単価)やROAS(広告費用対効果)を見て運用しているから大丈夫」などと考えるかもしれません。しかし、CVとなるポイントが明確な場合でも、KPIにはまだ落とし穴があります。
WebサイトにおけるCVポイントが明確になれば、そのCVに対するコスト効率を最大化するように広告を運用するのが、広告担当者(あるいは広告代理店)の仕事です。
Web広告が提供する役割は、基本的にはインプレッションとクリックです。故にCVについても基本的にはクリックにひも付いて評価していくこととなり、Web広告の指標は「クリックスルーCV(CTC)」で評価されます。CTCは一般的には「あるキャンペーンにひも付いた広告をクリックしたユーザー(デバイス)が、その後一定期間(多くの場合30日以内)でCVに至ったセッションの数」と定義されます。一つ一つのクリックがコンバージョンにどう貢献したかを評価するための指標なので、これ自体はまっとうな考え方といえます。
しかし、実際にはユーザーは1回の訪問で意思決定するとは限りません。むしろ、複数回の訪問を繰り返しながら最終的にサービスを利用したり商品を購入したりするのが普通です。
例えば、あるスポーツジムにおいて、以下のような行動を取ったユーザーがいたとします。
青い円は自社サイトへの訪問、黒い円はその他Web上での行動を表しています。この例では、1ユーザーが1回の申し込みに至るまでに、計6回もWebサイトを訪問していることが分かります。これは、ある1ユーザーの動きをランダムに切り取ったものではありますが、決して特別なケースを取り上げているわけではありません。特に即断即決することの少ない「検討期間を有するサービス」においては、多くのカスタマージャーニーがこのようなユーザーの動きで成り立っています。
この一連の動きにおけるCVにおいて、特筆すべきことは以下の3点です。
1の事象は、いかにも意思決定を間違えそうなケースといえるでしょう。例えばこのスポーツジムで1ユーザーが生み出す平均利益が10万円、1ユーザーの獲得単価の目標が3万円とされていたとします。それぞれの施策がCPA3万円で運用されていた場合、このユーザーを獲得するためには合計9万円のコストがかかっていると換算されます。特に、成果報酬となるアフィリエイトについては、この事実を織り込んで単価設定しなければ、あとで痛い目を見ることになります。
また、今回のケースでは1社のアフィリエイトリンクしかクリックしていませんが、多数のASPを利用している場合などは、1ユーザーが複数のアフィリエイトサイトで複数社のリンクをクリックした場合、それぞれのASPに対して成果報酬を支払うことになってしまうことになりかねません。余談ですが、サーチとディスプレイを別アカウントで運用している場合も、1回のCVでダブルカウントされてしまうため、評価には注意が必要です。
2のGAの数字との乖離(かいり)も重要なポイントです。「代理店のCV数の報告とGAの数値が乖離している」という悩みを相談されることがありますが、上記の通り、広告側とGA側の定義の違いを考えると、乖離が起こるのは当然です。広告側のCV数は、あくまでも「広告側から見たCVの数」であり、「自社サイト側から見たCV数」については、GAで正しく評価し、意思決定をしていく必要があります。
3については、Adwordsという1つの広告プラットフォーム内の問題です。このユーザーが最終的に「申し込もう」という意思決定を下したのは、ブランドワードで検索した検索結果ページに表示されるリスティング広告を見たからとは限りません。
最初の一般ワード「スポーツジム」で検索したときにリスティング広告が表示されていなければ、その後一連のブランドワード検索はなかったかもしれません。ブランドワードにたどり着くまでには、アフィリエイトサイトでの評価や口コミなども見たことでしょう。それらを総合的に判断した結果、「このジムに申し込もう」と考えて検索しているはずなのです。
それにもかかわらず、Adwords 内では「ブランドワード:1CV」とカウントされ、最初の流入に貢献したキャンペーンやキーワードがないがしろにされてしまっています。このCV数を基に判断すると、本来貢献したはずの一般ワードキャンペーンは縮小せざるを得ず、ひいてはブランドワード検索やCV数全数の減少につながることもあります。
また、今回の例ではCVにひも付くAdwordsセッションがブランドワードになっていますが、多くの場合、同じ理由でリマーケティング広告に評価が偏りがちです。
ブランドワードやリマーケティング広告からのCVのうち一定の割合は「放って置いてもCVしたはずのユーザー」が含まれています。これらのキャンペーンを、一からニーズ喚起する一般ワードのキャンペーンと同一KPI(目標CPA)で運用してしまうと、広告全体のCPAは改善しているはずなのにサイト全体のCV数は伸び悩むという事態に陥ってしまいます。
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