戦略は何のためにあるのか。良い戦略とはどういうものか。資生堂ジャパン 音部大輔氏と「アンバサダープログラム」を推進するアジャイルメディア・ネットワークの徳力基彦氏、藤崎 実氏が語った。
2017年9月7日、アジャイルメディア・ネットワークは東京・港区の虎ノ門ヒルズにおいて、「アンバサダーカンファレンス 2017」を開催した。
アドフラウド(広告不正)、ビューアビリティー(視認率)、ブランドセーフティーといった課題が注目され、ネット広告の信頼性が問われる中で、ブランドと顧客の関係作りも双方向のコミュニケーションが求められている。
ブランドのファン(アンバサダー)を育てていくためには顧客視点の企業戦略が不可欠だ。しかし、そもそも良い戦略とは何なのか。出発点が曖昧なままになっていないだろうか。
本稿では2017年3月に『なぜ「戦略」で差がつくのか。』(宣伝会議)を上梓した資生堂 CMLO(Chief Marketing Learning Officer)の音部大輔氏による基調講演と講演後に行われたパネルディスカッションから、成功のヒントを探る。
音部氏は、P&Gを皮切りにユニ・リーバや日産自動車などでブランドマネジメントやマーケティング戦略を手掛けてきた。現在は資生堂ジャパンのCMLOとしてブランドマネジメント組織の構築と主要ブランドの成長、再成長をミッションとして活動している。
音部氏は戦略について考えるきっかけとなる質問(Thought starter question)として「戦略とは何か」ではなく「なぜ戦略が必要か」と問いかける。そして戦略の構成要素として「目的」と「資源」を挙げる。
当たり前のことながら、成し遂げたい目的があって初めて戦略が必要になる。まずは、良い目的を設定するところから始なくてはいけない。音部氏は「雨の日のバイク乗り」のたとえ話を紹介した。
雨の日にバイクに乗るのは快適なものではない。ヘルメットやレインウェアで上半身がぬれることはないが、足元は金属に触れるため、ブーツにカバーをしてもすぐに破れてしまう。結果、雨の日のバイク乗りは足元がぬれてしまいがちだ。この不快さを軽減するにはどうすればいいか。ここで目的を考える必要がある。ぬらしたくないのはブーツか、足か、靴下か。ぬれて気持ちが悪いのは靴下であるならば、ブーツにカバーを掛けなくても靴下の上にコンビニ袋をかぶせれば済む。ブーツカバーを買う必要はないということになる。何を目的とするかで解決策は変わるというわけだ。
「良い目的の条件は、解釈に余地がないこと。解釈の余地しかないものはポエム。ビジネスの文書にポエムはいらない」(音部氏)
戦略が必要な理由として、目的とともにもう1つ考えなければならないのが「資源」だ。人もモノもカネも限りなく投入でき、いくら時間をかけてもいいなら、戦略など考える必要はない。
有限な資源をどうすれば有効活用できるか、またどう何を資源として戦うのか。音部氏はかつて所属したユニ・リーバの「リプトンのティーバッグ」の例を挙げて語った。紅茶ブランドで有名なリプトンのティーバッグは三角すいの形状になっている。これにより、従来のエンベロープ型のそれよりも茶葉が動きやすく良い味が出るとされているが、音部氏によれば実はもう1つ隠れた利点があるという。それは「ホチキスがないこと」だ。金属使用していないため電子レンジが利用でき、牛乳にティーバッグを投入すればロイヤルミルクティーを簡単に作れる。ミルクパンを焦がすこともない。小さな違いを資源として有効に活用することは重要だ。
同じ目的に向かって同じ資源を投入すれば戦略は同じものになるかといえば、必ずしもそうはならない。「マーケターは競争優位の源泉」と音部氏は言う。同じ売り上げ目標を掲げても、それを初回トライアルのみで取ろうとするのか、リピートで取るのかで、施策の在り方は全く変わってくる。また、資源の解釈も人によって違い、勝者はより多くの資源を持つ。
資源は自分の内側だけにあるものではない。外側の資源も重視しなければならない。マーケターの場合でいえば、広告代理店やメディア、顧客、コラボレーション先などが資源になる。とりわけ情報が氾濫し、マーケティングコミュニケーションが成立しにくい今日、常に言うことを聞いてくれるファンの存在は重要になる。
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