商品力や宣伝力だけでは、もはや人は動かない。人の行動を変え、自社の商品が選ばれるにはどうしたらいいか。戦略PRのプロとマーケティングのプロが語る。
情報洪水と商品飽和の時代において、単に商品のスペック推しや価格訴求だけでは消費者に購買活動を促すことができません。消費者に「買う理由」を訴求するにはどうすればいいか。2017年4月に出版された『戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)は、消費行動を変容させる情報戦略について書かれた1冊です。
本連載では、同書の著者であるブルーカレント・ジャパンの本田哲也が、各界のプロフェッショナルと「戦略PRとは何か」について語ります。
最終回となる今回は、日本を代表する2人のCMO、資生堂ジャパン 執行役員チーフマーケティングラーニングオフィサー 音部大輔氏と日本マクドナルド 上席執行役員 マーケティング本部長 足立 光氏、そしてモデレーターにアジャイルメディア・ネットワーク取締役CMOの徳力基彦氏を迎え、世に愛される商品の生み出し方について語ります。
本対談は、2017年5月26日に日本マーケティング協会にて開催された出版記念セミナー「戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則」の内容を元に編集されています。
徳力 資生堂ジャパンの音部さん、そして日本マクドナルドの足立さんのご専門は「マーケティング」ですよね。お2人とも日本を代表するCMOです。そして本田さんは日本を代表する「戦略PR」のプロです。ただ、お三方のお話を聞いていると、課題へのアプローチ方法や考え方が非常に似ていると感じることがあります。あえて意地悪な聞き方をしますが、「マーケティング」と「PR」、どちらが上位概念なのでしょうか。
本田 確かに似ていますよね。まじめな回答をすると「マーケティング」の目的は市場創造、「PR」の目的はステークホルダーとの良好な関係の構築です。そもそも目的が違うので、比較のしようがない。ただ、あえて言うなら、「PR」、つまり「パブリックリレーションズ」があらゆるステークホルダーとの関係構築を指すのなら、その活動の一部がマーケティングという言い方もできますよね。
音部 本田さんがおっしゃる通りで、「パブリックリレーションズ」という意味ではPRの方が上位ですよね。消費者とのコミュニケーションはもちろん、メディア対応から採用から、企業と社会の関係全部が「パブリックリレーションズ」、つまり企業活動全部がそもそもパブリックとのリレーションなわけですから。マーケティングと比較してどっちが重要かという議論だとすると、「胃と心臓とどっちが大事?」という議論をしているのと一緒かもしれない(会場笑)
足立 私は、「戦略PR」はマーケティングとほぼ同義ではないかと考えています。というのも、「戦略PR」が人の心に働きかけて「どうやって売るか」の空気を作るものであるなら、それはまさにマーケティングです。ただし、一般的に「PR」と言うときは「パブリシティー」を指すことが多いですよね。そうなると、マーケティング活動の中の1つの手段でしかない。ものをあまり言わなくても売れる空気を作ることを、マーケティングの世界では「ノンプロダクト・マーケティング」ということがありますが、これがまさに「戦略PR」じゃないでしょうか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.