インタビュー
» 2017年09月21日 08時00分 公開

別所哲也氏と語る、ブランドが映画を作る意味山口義宏が聞く「ブランデッドムービーの現在」(前編)(2/3 ページ)

[志田実恵,ITmedia マーケティング]

作品としての評価とビジネスとしての評価

山口 クリエイティブの勝ちパターンが定まっていないからこそ、さまざまな可能性があるわけですね。しかし、作品としてのよしあしとはまた別に、ビジネスの施策としてのブランデッドムービーを評価するのは、実際にはすごく難しいのではないかという気がしています。作品として良いものができたからといって、ブランドに何の価値ももたらさなければ企業が作る意味はない。かといって、単に商品を訴求するだけでは映画である意味がない。そもそも長尺のテレビCMのようなものを作ったところで、わざわざ見に来てもらえないでしょうし。

山口義宏氏
インサイトフォース代表取締役。ブランド・マーケティング戦略コンサルタント。国内外大手企業のブランド・マーケティング戦略策定支援のコンサルティングに豊富な実績を持つ。著書に『プラットフォームブランディング』(SBクリエイティブ)、『消費行動の「なぜ?」がわかる 実践講座ライフスタイルマーケティング』(宣伝会議)

別所 おっしゃる通りです。そこで「Branded Shorts」ではいくつかの指標を出し、それに従って審査員に審査していただいています。

山口 映画祭の主催者として最も重視したいポイントはどこでしょう。

別所 まずは「ストーリー性」です。「人間とは『物語る動物』である」というのが私の考えです。「ねー、知っている? 今日こんなことがあったんだ」という報告に、「えー、そんなことが世の中で起きたのか!」と驚き、「あるある!」と共感する。感嘆符やクエスチョン付きでさまざまな感情が共鳴するわけです。その感情の動きを引き出すための大事な要素がストーリー性だと思っています。単にテクニカルな演出が際立つものより、見た人に特別な感情を喚起できるストーリーや自分なりの解釈を語りたくなるようなストーリーを備えた作品の方が共感されるし、拡散力もあります。

山口 良質なストーリーで感動を呼ぶというのは、現在のブランデッドムービーの王道といえそうすね。特に家族愛を描いた作品が多い気がします。私も子どもがいますので、父親のインサイトを突いた作品にはついグッときてしまいます(笑)。心のひだに届く作品の条件とは何でしょう。

別所 「ベターライフ」あるいは「アナザーライフ」を見せてくれることだと思います。より良い人間でありたい、より良い人生を送りたいという気持ちは誰にでもあるものですから。もしくは、自分とは全く違う人生を見せてくれるもの。アクションやファンタジーもそうですが、見る側が経験したことのない状況で、物語の主人公に自分を置き換えられるストーリーは、共感を呼びますよね。殺人者の心の葛藤など、止むに止まれぬ究極の選択の決断をせまられるような物語で「私だったらこっちを選んだのに」と、のめり込んでしまう。これがストーリーの力です。

映画との違い、テレビCMとの違い

山口 ストーリーが重要というのはその通りだと思いますが、その見せ方となると、どうでしょう。ブランデッドムービーは視聴環境1つ取っても、普通の映画とはまるで違うわけです。映画は、映画館という集中しやすい閉じた環境で見てもらえる。見始めたらエンドロールまで席を立つことは基本的にありません。しかし、インターネットで配信されるブランデッドムービーは、そうはいきませんよね。映画的な表現を目指しつつも、制約の多い視聴環境でアテンションを維持し続けるという難しい命題を背負っているのではないでしょうか。

別所 「離脱率」という指標が象徴する通り、オンライン動画では見続けてもらえることが重要です。見せられてなんぼという点ではテレビの文化に近いかもしれませんね。

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