インタビュー
» 2017年09月21日 08時00分 公開

別所哲也氏と語る、ブランドが映画を作る意味山口義宏が聞く「ブランデッドムービーの現在」(前編)(3/3 ページ)

[志田実恵,ITmedia マーケティング]
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「感動ムービーがウケているからわが社も」で、差別化できるのか

山口 家族愛や親の気持ちに寄り添うメッセージが刺さりやすいというのは納得のいくところですが、一方で差別化戦略を考えると、皆がそこに傾倒することで違いが見えにくくなっているかもしれません。ブランデッドムービーはテレビCMと違って、商品を表に出しにくい。そんな中でブランドの差別化要素を印象付けるのは、かなり難度が高いことのではないかと思いますが。

別所 商品の見た目や機能に頼らずにブランドの個性を出していくのは、確かになかなか難しいことです。しかし、やりようがないわけではありません。好例が、Branded Shorts of the Year 2017におけるインターナショナルカテゴリーの受賞作品『Notes』です。これは、カナダにあるTake Noteという文具店のブランデッドムービーですが、テーブルに置かれたメモ帳のメッセージのやりとりだけで数十年にわたる夫婦間のドラマを描いています。作品の世界観を壊さずに、重要なプロダクトがストーリーの中で違和感なく、自然にずっと映っている。審査員長である崔 洋一監督が強く推した作品です。

Branded Shorts of the Year 2017 インターナショナルカテゴリーの受賞作品『Notes』

「バズ狙い」では意味がない

山口 ブランデッドムービーの役割を整理できていないと、うまくいかないかもしれませんね。テレビCMは、商品の感情的な価値と機能的な価値をバランスよく凝縮して伝えるものが多い印象ですが、ブランデッドムービーは感情的な価値に振り切ってしまった方が適しているのかもしれません。ブランドが持つ感情的な価値を抽出してシナリオにし、それを媒介に、ムービーを見た人にブランドの感情的価値が深く印象に残る。ムービーを見てすぐそのブランドの商品を買うことはないかもしれないけど、競合と比較して迷ったときに、感情的価値への共感が生み出した結び付きを感じて優先的に買うことを検討してもらえる。要は「えこひいき」してもらえための長期的な戦略投資なのかなと。

別所 価格や機能的な価値はWebサイトのスペック一覧を見れば分かるわけですからね。さらにSNSだってある。全ての企業体がサービス業化する現在、アフターケアまで全部口コミで広まるわけです。商品を売って終わりということはあり得ません。継続的に付き合ってくれる顧客に、すごく長いスパンでブランドの物語を伝え続けていかなくてはいけない。また、新たに市場に参入する立場なら、なおのことインパクトのあるストーリーを発信していくことが求められると思います。顧客にとってはスペックの高さより、その商品が自分のライフスタイルをどれだけ彩ってくれるのか、優越感を生み出してくれるのかが重要です。

山口 そのためのストーリーを、企業とクリエイターで生み出していくわけですね。動画でブランディングというと、いわゆる「バズ狙い」のようなものを想像する人もいるかもしれませんが、目指すのはそういう瞬間的なムーブメントではなさそうですね。

別所 瞬間的な視聴回数の多さを重視すると、奇をてらった演出とか刺激の強いもの、事件性があるものに傾きがちです。ドキュメンタリーに見せかけたウソなども、注目は集めるでしょう。でも、目指すべきはそういったものではないと思うのです。一瞬面白かったからといって、それがブランドの伝えたいことと何のかかわりもなければ、長期的な関係は築けません。ブランデッドムービーを通じたコミュニケーションは、もっと中長期的な取り組みだと捉えてほしいですね。(後編「別所哲也氏と考える、ブランディングの必要性を経営者に納得させる方法に続く)

(撮影/花井智子)

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