「カゴ落ち防止」のつもりで“ネットストーカー”になっていないか?【連載】オムニチャネル時代のコミュニケーションの「ツボ」 第2回(1/2 ページ)

「枠」から「人」へ。広告の効率的な配信ができるのはネットの強み。ECサイト事業者にとってアドテクを駆使した広告運用は欠かせませんが、実際、ユーザーの立場からすると……。

» 2016年09月26日 07時00分 公開
[鶴田 啓太郎バリューコマース]

 前回「売り手の常識、実は買い手の非常識? オムニチャネルの『便利さ』と『うっとうしさ』について)」では、販売接点のオムニチャネル化とマーケティングテクノロジーの進化がもたらした現状とその課題についてお話しました。

 オムニチャネル化により企業と消費者とのコミュニケーション機会が増え、両者の関係強化に向けたさまざまな取り組みが可能になりましたが、その半面、好機に安易に乗っかって無配慮に顧客とコミュニケーションを図ろうとすると、顧客に「うっとうしい」という拒絶の感情を植え付け、かえって企業イメージにダメージを与えてしまう危険性があります。今回は、企業と顧客のコミュニケーションに欠かせない「広告」を軸に、顧客視点に立ったコミュニケーション設計を考えてみたいと思います。

アドテクが目指す「無駄な広告」のない世界

 広告はメディアにとって重要な収益源であり、受け手である消費者にとって有益な情報源にもなるものです。ただし、どんな広告であれ、受け手の興味関心とマッチするものでなければ、受け取る側は広告をただ「邪魔なもの」と考えるだけであり、企業にとってもそれを打つ意味はありません。自社が求める(あるいは自社を求める)人に効果的にリーチ(到達)することは、マーケティングにおける最も重要な課題の1つです。

 従来の4マスメディア(テレビ、ラジオ、新聞、雑誌)に交通広告を加えたマス広告では、買い取った広告枠に対して一定期間、固定的な広告を表示し続けます。企業は広告を掲載する媒体の特性によっておおよその顧客像を想定してきましたが、最終的にどんな人がその広告を見たかは分かりません。また、基本的には一律に同じ広告を配信する他ないので、見る人によって広告を出し分けることも当然できません。故に、顧客となってほしい人により多くメッセージを伝えるためには、ターゲット層がより多く接触するであろう媒体に、より大規模に、より長期にわたり広告を出稿するしかありませんでした。結果、広告とは無関係な受け手もより多く生まれることになっていったのです。

 インターネット広告も、当初はマス広告同様、媒体として提供されているWebサイトの広告枠を表示期間や表示数で販売する「枠売り」方式でした。しかし、リスティングやアドエクスチェンジ、DSPといったアドテクノロジーの急速な進化によって、インターネット広告はWeb上で取得したユーザーの行動データを分析してその分析結果を広告へと適用できる、いわゆる「運用型」方式の広告を生み出します。

 この進化した運用型広告により、どんな人がその媒体に訪問したかを特定できるようになり、媒体に訪問した消費者に応じて広告内容の表示を切り替えることも可能となりました。例えば、「数日前に自社のECサイトでいろいろと商品を見た後で商品をカートに投入し、そのまま買わずにサイトを去った」人に対して、その人が全く別のニュースサイトに訪問した際に、記事ページの広告表示枠に先日カートに残したままの商品を表示させるというようなことができるようになったのです。

 買い物客が購入途中で離脱してしまう「カゴ落ち」は、EC事業者の悩みの種ですが、もともと購入意向がある人ですから、広告によってもう一度振り向かせることができれば、効率的に売り上げを増やすことが期待できます。また、消費者の側も、「買おうと思っていたけど途中で別の用事ができて忘れていた」というような場合には、気付きを与えてくれた広告は有益な情報ということになり、理想のコミュニケーションが実現できているように思えます。

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