顧客の数だけ「旅」があり「旅」の数だけシナリオがある。適切なタイミングで顧客にメッセージを届けるためには膨大なシナリオを実行する必要がある。言うだけなら簡単。どう実行するか。
アドテクの進化により広告主企業は、媒体に縛られずにターゲットユーザーのWeb行動に応じた広告の出し分けが可能になりました。
これにより、個々の顧客行動に基づいた顧客視点のコミュニケーション設計が容易にできるようになったことは間違いありません。しかし半面、それはユーザーを追い回し、企業にとって都合のよい一方的なメッセージの押し売りになってしまう危険性もはらんでいます。前回は、そういう話をしました。
顧客の閲覧した商品や接触した媒体、利用デバイスといった各種の情報は、その顧客の特徴を推定する上で重要な要素ではあります。しかし、顧客の購買行動は多様化しています。オムニチャネル化やマルチデバイス化が進みつつある昨今、ただ単に直近の購買行動や閲覧行動を断片的に切り取っただけでは、その人の購買行動の特性を正確に把握することは困難です。
では、このようにコミュニケーションの手段や方法の多様化、複雑化が進む中で、企業はどうすれば、正しく顧客のニーズに応え、また適切なタイミングで顧客にメッセージを届ける、「顧客視点」のコミュニケーションを実現することができるようになるのでしょうか。今回はそれを考えていきたいと思います。
顧客がある商品に興味を持ち、その商品について調べ、他の商品と比較し、迷い、最終的に購買に至るまでは長い道のりがあります。企業側がその顧客行動をどのように捉えるかで顧客のステータスは大きく異なってきます。
例えばアパレルにおける購買行動を例に考えてみましょう。ある顧客がショップに出向いてボトムスを見比べて何点か試着をした上で気に入ったものを購入したとします。その人は1週間後、今度は自宅のPCで同ブランドのECサイトにアクセスします。そこでセーターを探し、自分に合ったサイズの在庫があることを確認し、お気に入りに登録しました。その後はほぼ毎日、Webサイトに来訪してはお気に入りをチェックしていました。しかしある日、電車で通勤中に同ショップが提供するスマホアプリから「マイページ」にアクセスしたところ、商品が在庫1点になっているのに気付き、慌てて購入しました。
以上の購買行動において、もしこの企業が顧客のECでの購買行動しか把握できていなかったらどうなるか考えてみましょう。セーターを購入した時点でこの顧客のステータスは「初回購入のいちげんさん」という扱いにしかなりません。しかし、実はこの人が以前にショップでボトムスを購入した顧客と同一人物であるということが分かれば、いちげんさんどころか優良顧客に成長する可能性を秘めた有望新規顧客として扱わなければいけないことが分かるでしょう。また、閲覧行動も把握できていれば、高頻度接触顧客という評価も加わるはずです。
このように、1人の顧客が購買に至るまでの一連の行動や感情、意思の移り変わりなどを「旅」になぞらえた概念が、最近マーケティング分野で良く耳にする「カスタマージャーニー」です。オムニチャネル化によって多様化した販売チャネルは飛行機や船、列車といったさまざまな交通手段のようなものです。これらを組み合わせて移動する顧客の旅路において、彼らが望むコミュニケーションを実現するためには、単に閲覧履歴のある商品を他の広告媒体で表示し続けるといった、断片的な情報に基づく施策だけでは不十分です。顧客のインサイトに迫り、購買に至るプロセスを詳細にトレースし、彼らが求めているものを正しく理解することが重要となってきます。
この、「購買に至るプロセスを時系列に分かりやすく表現したもの」がカスタマージャーニーマップとなります。カスタマージャーニーマップの作成には特に決まった方法があるわけではありませんが、イメージとしては、まず「行動」「心理(気持ち・感情)」「顧客接点(施策)」 といった事象別に「興味喚起段階」「情報収集段階」「比較検討段階」「記憶段階」「購買段階」といった時系列のステージを設定します。事象、ステージは業種や業態により異なりますので、自社に該当する中身を考察し、記入していきます。
カスタマージャーニーマップを顧客ランク別、顧客タイプ別に作成していくことで、企業のマーケターは、顧客目線で自社のビジネス全体の流れを俯瞰して見ることができるようになり、また、自分たちの施策の課題や改善ポイントを明確にすることが可能になります。
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