オムニチャネル化を積極的に推進する国内最大級の小売店イオン。本社集中でなく個々の店舗による情報発信を重視するのはなぜか。イオンリテールの担当者に聞く。
国内小売業界をけん引するイオン。大手GMS(総合スーパー)から食料品・日用品中心のSM(スーパーマーケット)まで多角的に展開する同社では、中期経営計画の柱の1つとして「デジタルシフト」を掲げ、積極的にオムニチャネルを推進している。既に数々の取り組みを進めている同社だが、最近注力している分野は何か。2000年よりイオンのEコマースプロジェクトに参画し、「aeonshop.com」やネットスーパーなどECの立ち上げ、グループのオウンドメディア「イオンスクエア」の開発、グループデジタル戦略(AEON.COM)など、一貫してリアル小売業におけるデジタル戦略の構築と現場のオムニチャネルオペレーション実現に取り組んでいるイオンリテールの井関定直氏に話を聞いた。
小川 これまで御社はさまざまなデジタルマーケティング、オムニチャネルの取り組みをされてきていますが、目下のところはどのようなことに注力されているのでしょうか。
井関 デジタルマーケティングの一部としてのオムニチャネルという考え方もあったのですが、「オムニ」という言葉自体に「全て」という意味があるので、オムニチャネルから全体を捉えるようになりました。その中でも、われわれはたくさん拠点となる店舗を持っていますから、これを軸にどのように戦略を講じていくかということがポイントです。Webで注文や予約をしていただいたものをお届けすることもあれば、注文したものを店舗で受け取っていただいたり、お客さまをお迎えに上がることもあります。あらゆるお客さまの行動バリエーションをデジタルを使ってエンハンス(拡張)させることを目指しています。
小川 具体的にはどのような施策になりますか。
井関 例えば、よくネットスーパーを利用されるお客さまは、来店利用率も上がることが分かっています。よって、オフライン送客用のインセンティブメールを送ります。さらに、同一IDでイオンの専門店ECも利用されるお客さまは、イオントータルでの財布シェア(※1)が高くなる優良顧客であるため、サービスを拡張するべく店舗受け取りとご自宅届けが選択できるサービスをお勧めするなどしています。このように、お客さまの買い物導線の中にデジタルがシームレスに入り込んだマーケティングを心掛けています。昨今はIoTへの取り組みが盛んですが、オンとオフをつなぐことで生まれる利便性をいかに創造し、提案していくかが重要だと考えています。
※1. 顧客がイオン全体(リアル、ネット双方)で使用する購入金額割合
小川 大規模小売では、本社での一括施策、オペレーションを展開することが多いですが、御社は個店単位でのデジタルマーケティングや販促を手掛けられている点が特徴的ですよね。例えば、電子チラシShufoo!の「ミニチラ」を活用して、店舗スタッフが個店別の情報配信を実施していらっしゃる。
井関 「Shufoo!」の取組は今期から本格展開しましたが、そもそも2004年くらいには、ブログのトラックバック(※2)を通じて情報が伝搬する仕組みというものを考えていました。それをうまく、われわれのチェーンオペレーションにつなげられないかと。
※2. ブログのリンク先に対してリンクを張ったことが自動的に通知される仕組み。
小川 その当時から、チェーンオペレーションを意識されていたということですよね。
井関 発想自体は、相当前からありました。問題は、その仕組みを社内でどう実現するかということ。そのため、外部の力も借りようと大学院(法政大学 大学院 イノベーション・マネジメント研究科)に通って論文のテーマにもしていたくらいです(笑)。その論文が評価されて協力者が増え、奨学金をいただいたりもしました。
小川 ちなみにその論文はどのようなタイトルだったのですか。
井関 「ブログとモバイルの活用による顧客の需要創造革新」というようなタイトルでした。お客さまを副店長のような位置付けにし、一般市民の皆さまが中立的な立場で情報発信をすることが肝で、オピニオンリーダーの発信力の強さ、トラックバックによってどのように情報が伝搬するかといったことを、ネットワーク図などを使って論じています。
小川 まさにソーシャルメディアマーケティングのエッセンスがそこにありますね。まだ黎明(れいめい)期で、ソーシャルメディアといういう概念自体も、現在ほど明確ではなかった時期ですが。
井関 ええ、面白い研究でした。ランドセルのECを題材に、ブログを書く副店長が発信したコメントであるとか、トラックバックでつながっていく第三者のユーザーが言葉を拾ってどうつなげて行き、最終的にECにどれくらい影響を及ぼすのかといったことを、統計的に分析しました。勤務の傍ら、夜間に大学院に通っていたので、実務とリンクさせながら研究を続けていました。
小川 井関さんの実務にとって、有機的な研究だったといえますね。
井関 トラックバックネットワークでECの売り上げが伸びるという検証ができ、ありがたい環境でした。各地域に情報発信をする人がいるということの価値がよく分かりました。イオンにはまず本社があり、さらに540店ほどGMSがあるのですが、各地域でデジタル化されていない会話、情報が大量にあるわけです。お客さまの声、従業員の声、各地域、各拠点で日々なされている会話がデジタル化し、コンテンツとなったときに、どうなるのかという実験ができました。
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