デジタル化の波はあらゆる業種業態に押し寄せている。老舗百貨店とて例外ではない。歴史と伝統を背負うブランドならではの苦悩とそれを克服するために必要だったこととは何か。高島屋のキーパーソンに話を聞いた。
1831年に創業し、日本を代表する百貨店として知られる高島屋。リアル店舗でもオンラインでも「高島屋グレード」の品質と品ぞろえを追求し、攻めのオムニチャネル戦略を追求する。現在までの取り組みのいきさつと老舗百貨店がこの分野に注力するための課題、今後の展望について、高島屋オムニチャネル推進担当部長 園田早苗氏と同宣伝部 プランニング室 永井隆展氏に話を聞いた
小川 御社はオムニチャネル推進担当部門を立ち上げられましたが、まずはその背景、いきさつを教えていただけますか。
園田 もともとは2013年度に、本社の経営組織である経営企画(当時の名称は経営企画グループ)の中に、オムニチャネル戦略の担当が置かれました。オムニチャネルの定義もいろいろあると思いますが、当社として取り組むべきこととして、各チャネル、インフラ、宣伝広告、組織の在り方などを整え、実践に落とし込む前に、きちんとした枠組みを経営と確認しながら作っていくことが必要であろうという時期でした。
小川 オムニチャネルの実践前の地ならしですね。
園田 まさにそういう位置付けです。走りながらですけれども、大枠ができててきた段階で、それをどのように実践へ移行するかということになりました。オムニチャネルは営業戦略そのものでもありますので、営業部門の方に、自発的にプランニングしていく部署が必要だろうということになりました。1つの危惧としては、営業部隊の中に置いてしまうが故に、中長期的な戦略を考える必要があるオムニチャネルと業務が混在してしまうことがありました。
小川 オムニチャネルは部門横断で推進していかなければならない面があるので、その旗振り機能を営業部門の中に置くべきかというジャッジメントですね。
園田 その通りです。縦型の業務のやり方を、横型にしていく必要がありますので。経営企画に近いというか。営業本部の中で完結しないので、きちんと回せるかどうかが問われました。担当が置かれて1年間の取り組みの中で、社内理解が醸成され、人材も育ち始め、その危惧も払拭(ふっしょく)されていきました。
小川 そこでオムニチャネル推進担当部門が立ち上がったということですね。
園田 そうです。
小川 オムニチャネル戦略を重要視する企業は増えていますが、それを本格的に推進して行くためには組織横断で展開しないといけない。そうなると当然体制面の改革も伴います。そこで前に進まなくなり、立ち止まってしまう企業も多いと思います。御社の中でオムニチャネル推進を実現できているのは、どの辺にポイントがあるのでしょうか。
園田 それは経営の意志ですね。「経営判断としてやるぞ」という意志がはっきりと示されている点です。
小川 経営判断という前提は、各論を展開する上でも大きな意味がありますよね。
園田 それは大きいと思います。
小川 御社はたくさんのチャネルを有していると思うのですが、それぞれのチャネルを整備、統合していく上で、どのようなことに注力されていますか。
園田 オムニチャネルを展開していく上で、特にECの整備には注力しています。
小川 そもそもECはいつ頃から稼働しているのでしょうか。
園田 EC事業の立ち上げ自体はかなり前でして、1996年です。1997年に日本初のネットショッピングの本格的百貨店「タカシマヤ バーチャルモール」をオープンしました。
小川 立ち上げは随分と早かったのですね。百貨店としては初のオンラインモールということですね。
園田 そうですね。百貨店として取り組んでいた通販との親和性があるので、その流れの中で自然にECへとつながっていきました。
永井 その後、2004年に「e百華店」としてリニューアルを行い、2008年には百貨店初のファッション専門サイト「タカシマヤファッションモール」をオープンしました。
小川 百貨店としての御社の歴史は相当に長いですから、それまで築いてきた店舗の存在感は大きいでしょう。ECに対して現場の理解を得ることは結構なご苦労だったのではないでしょうか。しかも当時まだECの黎明(れいめい)期にそこに着手したわけですから。
園田 実際のところ、それは今でも容易ではないですね。
小川 オムニチャネルとなると、店舗の現場がECとシームレスになれるかが問われるわけで、なおのこと一筋縄にはいかないでしょうね。
園田 店舗の現場感覚からすると、「(ECに)売り上げを取られる」と思ってしまいがちですね。カニバリゼーションみたいな話で。そのときに私がよくするのは、「オンラインと皆さんは家族なんです」という話です。「けんかするときも、嫌なときもあるけど、捨てられないし、一緒に生きていかなければならないのだから、広い心でいよう」と。まずはそこからでした。
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