M.ライアン・カロ教授は、「企業は、個人情報を取得/乱用しているほか、テクノロジを用いて市場を操作しかねない危険性がある」と警鐘を鳴らす。特にそのリスクが高いと思われる動きは、次の3つだ。
MITビジネススクール専門誌のサイト『MIT Sloan Management Review』に2013年9月24日、“Is Digital Advertising a New Form of Market Manipulation?”(「デジタル広告は新しい「市場操作」の形態なのか?」)と題するコラムが掲載された。このコラムは、スタンフォード大学ロースクール・インターネット社会学センターの研究者であり、ワシントン大学ロースクールで教鞭を取っているM.ライアン・カロ教授の研究論文を基にしたもの。FacebookやTwitter、Instagramなどが新しい広告機能を次々とリリースする中、カロ教授は『デジタル市場操作』という論文の中で、「企業は、あらゆるユーザーエクスペリエンスの局面において、個人情報を取得/乱用しているほか、テクノロジを用いて市場を操作しかねない危険性がある」と警鐘を鳴らす。特にそのリスクが高いと思われる動きは、次の3つだ。
いま多くの企業では、ビッグデータ技術を利用し、ビジネスの中で収集/生成(または購買)した膨大な顧客データを基にマネタイズする仕組み作りを進めている。中でも注目を集めているのが、顧客の行動履歴データだ。ビッグデータ技術は、こうしたデータの裏に潜んでいる「突然変異変数」を表面化し、個人の行動に影響を与える「認知バイアス」を洗い出す手段になっている。利益至上主義の企業の場合、この認知バイアスを乱用しかねない。
今日、自分が意図するよりもはるかに多くの情報を開示“させられて”しまう仕組みにあふれている。例えば一度に大量の顧客に対して検証を行うA/Bテストやアンケートテストなどもその1つだ。大企業の場合、大量の顧客にアプローチできるので、1人ひとりの特徴や信条などを明らかにして何らかの傾向をつかみ、それに沿って市場操作を進めてしまう可能性がある。
自分の行動(閲覧)履歴に基づき、さまざまなターゲティング広告を、手を変え品を変え見せられているうちに、いつしか購入“させられてしまう”リスクがある。
ただし、どこまでが「パーソナライゼーション」の範囲で、どこまでが「顧客保護の問題」になるかという切り分けは非常に難しい。企業からすれば、「顧客の嗜好に合った情報を、最適な形/タイミングで提供したい」という思いがあるのに対し、論文で指摘されているように、一歩間違えれば市場操作やプライバシー侵害につながる可能性がある。
カロ教授は「顧客とのインタラクションにデータを活用することは、常に乱用のリスクが伴う」とし、「デジタルマーケティングが間違った方向に行かないように」と願っているという。実際、この『デジタル市場操作』の論文がきっかけとなり、顧客情報保護法の限界について再考する動きも出ているらしい。デジタルマーケティングと市場操作の境界、そしてプライバシー侵害との関係性については、今後も議論を呼びそうだ。
※本記事は、MIT Sloan Management Reviewに2013年9月24日に掲載されたコラム
“Is Digital Advertising a New Form of Market Manipulation?”(「デジタル広告は新しい「市場操作」の形態なのか?」)を基に加工/編集した記事です。
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