中里:サラリーマンの場合、家から会社に行かなければいけません。子どもがいると、家では「夫」であり、「パパ」としての存在。会社では「課長」といった肩書きがある。その人はどこかのタイミングで自分自身を切り替えなければいけません。そのタイミングがまさに移動シーンなわけです。人間は移動することで役割が変わってきます。役割が変わることで心理が変わってくる。移動中というのはクルマのギアでいえば、ニュートラルな状態なわけですよ。心理が切り替わるときなので、メッセージを受け入れやすい状態なのではないか、と考えています。
土肥:移動者をうまく狙えば、その人が買い物をしてくれるかもしれない、ということですか?
中里:その通りです。家で広告を見て「いいなあ」と思っても、すぐに行動する人はほとんどいません。ドイさんも家でジュースの広告を見て「飲みたいなあ」と思っても、すぐに買いに行きませんよね。
土肥:行かない、行かない。「明日、買うか」と思っても、翌日には忘れてしまうタイプですね(苦笑)。
中里:ドイさんのように昨日の広告を忘れていても、移動中に何らかの刺激を与えることで、“飲みたいなあと思ったジュース”を買いたくなるかもしれない。
土肥:どうすればいいのですか?
中里:闇雲に移動者にアプローチをすればいいというわけではありません。そこで重要になってくるのが、「移動者のインサイト(移動シーンの行動や心理)」を刺激すること。移動シーンの深層心理がポイントになってくるのですが、これは1人の人間でも移動ごとに違ってきます。
例えば、朝、出社するときの気持ちと、夜、会社から帰るときの気持ちって違いますよね。私たちの調べによると、朝は「今日も1日平穏無事にそつなくこなしたい」(83.7%)という人が最も多く、次いで「オフからオンへ、モードを切り替えたい」(63.0%)、「朝から全力で活動的に過ごしたい」(47.4%)などがありました。
夜は「仕事や勉強が終わった開放感がある」(88.1%)、「1日溜まった汚れを洗い流してすっきりしたい」(82.2%)、「1日がんばった自分にご褒美をあげたい」(73.1%)と答えた人が多かったですね。
このように移動シーンと生活者の深層心理によって、商品やサービスの提案を変えていくことが理想でしょう。「細かい話だなあ」と思われるかもしれませんが、成熟した消費社会ではこうしたきめ細やかさが必要になってくるのではないでしょうか。
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