土肥:移動者を狙ったマーケティングで、成功事例があれば教えていただけますか?
中里:電車の中にトレインチャンネルってありますよね。車両のドアの上にあるモニターに、ニュースなどを放映するメディアですが、そこにジャイアントコーン(江崎グリコ)のCMを流しました。始発から17時までは、テレビCMと同じものを放映しました。そして17時以降は、移動者を狙ったオリジナルのCMを流させていただきました。
土肥:どんなCMですか?
中里:ジャイアントコーンというブランドは、ほとんどの人が知っていますよね。また一度は食べたことがあるという人も多い。なのでジャイアントコーンの好感度を高めるだけのものではなく、この電車に乗ると「ジャイアントコーンを今すぐに食べたい」といった気持ちになるようなCMをつくりました。いわゆる業界用語で言うところの“シズルカット”(食欲や購買意欲を刺激するような「おいしそうな感じ」のこと)ですね。
そして調査を行いました。アイスを食べないという人を除き、“シズルカット”のCMを見た人に、2週間以内にジャイアントコーンを買いましたかと聞いたところ「はい」と答えたのは39.4%もいました。一方、この広告を見なかった人でジャイアントコーンを買ったのは10.4%。同じ時期に他のメディアでのシズルカット広告の露出はなかったので、この29ポイントの差が広告の効果かなと思っています。
土肥:ほー。
中里:ここで「“シズルカット”のCMはすごい!」と言っているわけではありません。モノを買う行動の前提には、ブランドの認知や好意といったものがまずあってのこと。ジャイアントコーンという商品はほとんどの人が知っていて、多くの人が食べたことがあるはず。こうしたブランドは、シズルで刺激を与えるだけで「食べたい」と思いやすい。コンビニで売っていることも知っているので、電車を降りて、最寄のコンビニで買った人も多かったのではないでしょうか。またコンビニに行く前には別のアイスを買う予定だったのに、直前にこのCMを見たことで「ジャイアントコーンを買おう」と思った人もいたかもしれません。
例えば、ジャイアントコーンを月に1個食べる人がいるとします。この人に刺激を与えることで、月に2〜3個食べるようになるかもしれません。お店へ行く前に「あなたがいつも食べているアイスおいしいよね。今日も買ったら?」といった内容を提案すると、買ってくれるかもしれません。少し偉そうな言い方になりますが、「移動を狙えば、“買う”はつくれる」と思っています。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.